82.自分の服
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「ごちそうさまでした。」
「良かった。全部食べられたみたいですね。
では、食後すぐで申し訳ないのですが、こちらをあてていただけますか?
遅くなりましたが、ハルカさんの身の回りのものです。今までのものと違って、すべてハルカさんの個体のものですので。」
こたいのもの?…ああ、個体ね。私のか。
アニスさんが、食器の乗ったトレーを下げてテーブルを拭き、袋から品物を取り出して綺麗に並べてくれる。
服と肌着と…帯かな?サンダルもある。
小さな袋もあるけど、これは何だろう?
でも、そっか、これまでほとんど借り物だったけど、ようやく自分の服が手に入ったんだ。
嬉しいなあ。2日目に下着だけは新品を揃えてもらったんだけど、他は借り物だったんだよね。
こっちの下着は、ボクサータイプのショーツとスポーツブラみたいなブラジャーもどきだった。
自分のやつも洗面所でこそこそ洗濯しておいたけど、こっちの下着の方が付け心地がサラッとしてて、今は貰った下着の方を着けてる。
紐で調節するタイプだけど、不自由はない。
基本的に、生活に必要なものはアニスさんにそろえてもらってる。
私もアニスさんには積極的にいろいろ聞くようにしている。
きっかけは、2日目の朝。したくを手伝ってもらってる間に、洗濯の許可をもらおうと下着の話になったから。
聞いて初めてわかったんだけど、種族によっては肌着すら必要とせず、上の服だけで良い種族もいるので、要望が無い限り下着は出さないことになってるらしい。
衛生のため買い取りになるみたいだけど、同じくらいの衛生観念で非常に助かると思った。
それで、初日にフェラリーデさんが用意してくれたのは、入院患者に用意する基本一式だったらしい。
最初は着替えだけの予定だったと話したら、それならお風呂を借りるときに確認を忘れたのだろうと言われた。
下着は各自で用意するのが何処の病院でもお約束らしいから仕方ない。
そういう話を患者さんにするのもアニスさんみたいな経験の浅い者がするらしいし。
フェラリーデさん、隊長さんだもんね。
雑用なんてやらないでしょ。
後でフェラリーデさんが謝ってくれたけど、これは私も悪いからとお互いに謝った。
どっちかと言うと、替えの下着を持ってたからって、聞きもしなかった私の方が悪いと思う。
それで、急いで下着だけは新品を用意してもらった。
お金はルシェリードさんから出るらしい。
恐縮したけど、こっちのお金は持ってないし、街に来て最初の世話は後見人がするものなので気にしなくていいと言われた。
これは街に元々ある制度で、他の土地から来たひとは街に慣れるまで世話をするひとを付けるのが義務化されているらしい。
なんでも、お金じゃなく物々交換の地域もあって、お金のやりとりに慣れない住民を狙った詐欺が横行したから、その防止策として出来たそうだ。
他の土地から来た者はほとんどが技術者。
技術都市のルシェモモでは技術者は街の財産そのものというわけで、この制度が作られたらしい。
責任のある仕事なので、『世話役』と言って街に認められた専用の資格がいるらしいけど、財力がある場合はさらに責任を負う『後見』になれる資格を持てるらしい。
私の場合はルシェリードさんに後見についてもらったので、生活に関するもろもろを全て揃えてもらえるそうだ。
正直、頼る者も持つ金銭も無い身なので、素直に甘えることにした。
下着以外は初日の気温低下の騒ぎで物流が止まってる所があるらしくて、少し待って欲しいと言われた。
原因の一端が自分なので嫌はありません。
むしろ、忙しいのに用事を増やしてすみませんと申し訳なくなった。
そして、今日やっと自分の服が用意されたというわけだ。
思ってたより早かったなあ。やっぱり自分のものって嬉しいよね。
アニスさんがそろえてくれたのかな?
上の服もアニスさんのだって聞いてるし。
アニスさんと私はサイズが似てるみたいだ。
…胸の大きさは段違いだけど。
やめよう。気にしたら落ち込む。
せっかくの自分の服だ。着てみようかな?