79.呼吸
「では、こちらからは名前を名乗るくらいでいいんですね?」
「ええ。負担になりますから。」
はあ。自己紹介で体力使うとか、ホント異世界。
まあ、実際使うのは魔素だけど、それで疲れるなら同じような認識でいいよね。
ちゃんと交流を持つと決めたひとにだけ、ちゃんと挨拶しよう。
ここにいる間は、お世話になるひとばかりだから問題なさそうだけど…。
「では、次は呼吸ですね。」
あ。お願いします。
普段どういう風に自己紹介するかは後で考えよう。
「昨日、ハルカさんの呼吸について話題になりましたね。
呼吸は、空気の入れ替えだけでなく、身体の状態を整え、魔素の状態を一定に保つ働きがあります。」
ふむふむ。要は落ち着くってことでしょうか。
泣いたりすると喉がひきつれて、上手く呼吸できなかったりするもんね。
逆に、私があー兄ちゃんに深呼吸を教えられたみたいに、呼吸が安定すれば気持ちも落ち着くはずだ。
で、それが身体と魔素にも影響すると。
「魔素を一定に扱えれば、身体の強化、感覚の増幅、違う個体の調整など、幅広く活用することが出来ます。
そのため、一定の呼吸の習得は非常に重要視されています。」
魔素っていろいろ出来るんだなあ。
それには呼吸が重要だと。
だから、昨日深呼吸への食いつきがすごかったのか。納得。
ルシェリードさんにまで聞かれて何事かと思ったけど、呼吸法が確立されてないなら、あの反応も仕方ないか。
「あの、調整っていうのは…?」
説明の中で引っかかった言葉を聞く。
ここで聞かなきゃ、聞くときがない。
「相手の感情、身体の状態などを自分と合わせることです。
相手の状態を多少ですが把握出来ますので、魔素を流して治療したり、共同の作業をしたりする時に用いますね。」
ん?治療したり、共同の作業を…。
それって『共鳴』とは違うの?
「あの、それは『共鳴』とは違うのでしょうか。」
「…ええ。影響力が桁違いです。『調整』で感知出来る範囲は「なんとなく」といった曖昧なものです。相性が悪ければ跳ね返されることもあります。
『共鳴』は『調整』の数10倍の影響力があり、お互いだけでなく、周囲にも影響します。」
え。全然違うんだ。
数10倍って…。
「驚かれましたか?『共鳴』の効果は絶大ですが、それほど相性の良い相手は極めて稀です。
ハルカさんとクルビスはその稀なる例の1つですね。」
微笑ましそうに言われるけど、こっちはそれどころじゃない。
私の知ってる共鳴と違わない?
確か、相性の良い者同士だと、魔素を響かせ合って治療も出来るから重宝されるって軽い説明だった。
でも、今の説明だと、かなり珍しくて効果がものすごいみたいだ。
(メルバさん~っ。聞いてた印象と違うんですけどっ。)
「それだけ魔素の相性が良いと、お互いにいい影響を与えるので、精神的な安定はもちろん、寿命が延びたり体力の回復も術式に頼らずとも行えます。」
しかも、寿命まで延びるとか…。
これって「ちょっと便利だね」なんてレベルじゃないよね?
「そして、これは周知の事実なのでお伝えしますが…共鳴を行える者同士は『番』とみなされます。」
…え?
つがいって、あの…。
「えええ!?」