76.報告
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今回の結果。7回でダウン。
1セットやった後、一呼吸置いたら膝ががくがく震え始めたのでメルバさんに自己申告。
自分の限界を知るのはいいことだと褒められました。
負荷をある程度かけて耐える練習は必要だけれど、身体を壊しては元も子もないと。
「そう言っても、やり過ぎちゃう子が多くてね~。」
ため息を吐きながらメルバさんがこぼす。
隣でルシェリードさんが頷いていた。
どうもギリギリまでやる人が多いみたいだ。
何でだろうと不思議に思ってると、メルバさんが説明してくれた。
耐えられる負荷が大きければ大きいほど、魔素のコントロールの幅が広がるらしい。
コントロールが自在にできると、その職でトップクラスに上り詰めるのも夢じゃないとか。
そのため、耐負荷値を上げようと無理な訓練をするひとが絶えない。
特に守備隊の隊士にその傾向が強いらしく、1ヶ月に50は運ばれてくるそうだ。
それで結果として、治療部隊がとても忙しくなり、通常の治療に支障が出ることもあるのだそうだ。
話を聞いて、何だその旧式な体育会系のノリはと呆れてしまった。
運動も休息もいる。何事もバランスが大事だ。
「まったくもってその通りなのですが、中々わからない隊士が多くて…。」
私の話を聞くと、フェラリーデさんはため息をついてそう言った。
今はフェラリーデさんの講義の時間で訓練のことを話しているんだけど、訓練過多な患者はフェラリーデさんにも悩みの種らしい。
さっき何か言ってることと違う含みを感じる言葉があったけど、それはスルーする方向で。
世の中気にしなくていいことはたくさんあるよね。
それで、講義の前にこんな話になったのは、ルシェリードさんが来てるという話題になったから。
やっぱり、偉い方が来ると気になるのかな。
「それで今日の訓練は終わられたのですね?」
フェラリーデさんに促されて、もう一つ思い出す。
大したことじゃないけど、ルシェリードさんのことだし話しておこう。
「ルシェリードさんに深呼吸を教えました。」
そう、自己申告でストップして、休憩しながらルシン君の訓練を見てると、ルシェリードさんに深呼吸を教えて欲しいと頼まれたんだよね。
特に問題もないので、昨日クルビスさんたちに話したのと同じ説明をしたけど…。
何だかえらく感心されてしまって、たかが深呼吸なのにと逆にこちらが恐縮してしまったんだよね。
そんなことを話すと、フェラリーデさんは興味深そうに聞いていた。
「そうですか…。深呼吸を…。」
ええ。深呼吸ですが。何か?
昨日といい、深呼吸が注目を浴びている?何で?
いや、呼吸が大事なのは聞いたけど…。
反応がおおげさじゃありませんか?
「不思議そうですね。…そうですね。今日は昨日の名乗りと呼吸についてお話ししましょうか。」
私の疑問一杯な顔に気付いたのか、フェラリーデさんがふわりと微笑んでくれる。
ぐふっ。不意打ちは勘弁して下さい。
美形の微笑みはダメージが大きいんですから。