72.母になる
「刷り込みって…。」
「学校で習いました。動物は初めて馴染んだ魔素で親と認識するって。」
ルシン君がヒヨコもどきをなでながら説明してくれる。
え。初めて見たものじゃないんだ。
こういうところは異世界仕様だなあ。
何でも魔素ですか。
(ん?でもそれだと変じゃない?)
新たな疑問が浮かぶ。
「…どうして私なのかな?」
初めて馴染んだ魔素なら普通は自分の親だ。
特にこの子の懐く様子を見ると、生まれてすぐに巣立ちするタイプには見えない。
「恐らく、情報が書き換えられたのだろう。」
私の疑問にルシェリードさんが答えてくれた。
情報の?
「書き換え…ですか?」
「ああ。こやつは森の中で拾ったと言っただろう?」
ルシェリードさんの質問にこくこく頷く。
そう。ルシン君のドラゴンの魔素にあてられて気を失ってたんだよね。
ドラゴンの気配に怯えたせいか、この子の親もいなくなったみたいだってクルビスさんが言ってた。
「気を失って、落ち葉の中に埋もれてました。」
クルビスさんが補足してくれた。
ありがとうございます。
「その時に覚えた魔素の情報を失ったのだろう。
セパには環境の変化に対応しようとする能力が備わっているからな。
お前はどう思う?メルバ。」
「そうだろうね~。そして、治療したときにハルカちゃんとクルビス君の魔素に情報を書き換えちゃったんだろうね~。」
「クルビスさんもですか?」
片親だけじゃないんだ。
刷り込みのイメージだとお母さんだけだけど。
「…そうなる。」
「ピギィっ。」
ヒヨコもどきがクルビスさんに向かってふんぞり返る。
今の鳴き方…不満みたい?むむっ。これは良くない傾向だ。
「喧嘩しないの。めっ。」
ヒヨコもどきの頭を指先で小突いて注意する。
すると、頭が重いのか小突いた方向に転んだ。
「おっと。」
「わわっと。ありがとうございます。クルビスさん。」
落ちはしなかったけど、咄嗟にクルビスさんが手を添えてくれた。
ごめんヒヨコもどき。
「ごめんね。大丈夫?」
様子を伺うと、何があったかわからない様子で私とクルビスさんを見比べていた。
良かった。大丈夫みたい。
「喧嘩はだめだよ~。せっかく、お父さんとお母さんが揃ったし~。よかったね~。」
「…プギっ。」
そっか。刷り込みしたんなら、この子にとって私とクルビスさんはお母さんとお父さんかあ。
ふふ。何だか照れる。
「この子、私とクルビスさんの子ですね。」
何だか気恥ずかしいけど嬉しい気持ちでクルビスさんを見る。
クルビスさんは目を細めて私を見ていた。