71.刷り込み
「それでは、このまま連れ帰ってもまた食べなくなるな?」
「たぶんね~。」
ルシェリードさんの疑問にメルバさんとクルビスさんが頷いている。
確かに、自分で食べなかったんなら、同じことになりそうだけど…。
「でも、どうしてこんなに危ないことを…。」
疑問を口にしてしまう。
だって、生き物として食べないという行為はとても不自然だ。
「セパって自分で餌の量を調節できるんですか?」
ルシン君がヒヨコもどきを興味深々といった様子で観察している。
そういえば、初めてヒヨコもどきを見た時も驚いてたなあ。
「いや。普通はない。こいつがおかしいんだ。」
「ピギィっ。」
クルビスさんの説明にヒヨコもどきが抗議するように鳴く。
…やっぱりこっちの言うことわかってるよね?
(え~と。ちょっと頭整理しようか…。
クルビスさんの言ったことと、ルシン君と私の疑問から考えると、この子は私に会うために自分でご飯を食べなかった。ストライキよね。
で、普通はそういうことはしない。いうことは、この子は特別賢いってこと…よね?
それで、このまま連れて帰っても、同じことになる?)
若干混乱する頭を落ち着かせ、今までの情報を整理してみる。
ルシェリードさんが言ったのってこういうことか…。
どうしようかなあ。私はまだここでお勉強しないといけないはずだし。
困ってクルビスさんを見ると、頷いてくれた。
あ。何か大丈夫な気がする。
おまかせしよう。
「こいつをこちらで預かってもいいですか?北にもセパの飼育小屋はありますし、このまま連れ帰ってももっと厄介なことをやりかねません。」
すっごく嫌そうにルシェリードさんに提案してる。
ホントに嫌そう。森で見た時はそうでもなかったのに。何で?
「そうだね~。まずは無事に大きくなってもらわなきゃ~。
この子。野生のセパだよね~?これだけ賢いと、群れのボスの子かも~。大きくなったら、セパ達を統率してくれるんじゃない~?」
「…そうだな。どうもハルカを母だと思っているようだし。」
…はい?
今、聞きなれない単語が…。
「ああ。そうだね~。ハルカちゃん~。さっきこの子腕に飛び乗ってきたでしょ~?
それって、お母さんに甘えてる時の行動なんだよね~。」
つまり?
クルビスさんを見ると、嫌そうな顔のまま頷いている。
「刷り込みですか?」
ルシン君がきょとんとした顔でヒヨコもどきを見ていた。