70.ストライキ
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治療を始めてから数分。手の中の毛玉がもぞもぞ動き出した。
気が付いたのかな?
(もうちょっとだから、大人しくね~。)
心の中で話しかけつつ、細く長く息を吐く。
呼吸が一定なのが大事だって昨日聞いたから、ここで乱してはいけない。
ギュッ
そう思ったらクルビスさんが私の手を覆ったまま握ってくれた。
大丈夫だ。って言われてるみたい。
うん。がんばろう。
もうちょっとなんだから。
「プギッ。」
そんなことを考えてたら、ポンっと跳ねるようにヒヨコもどきが頭を出した。
そして、何故かクルビスさんを見上げて固まった。
(どうしたんだろう…。まだ動けないのかな?)
伺うようにクルビスさんを見ると、こちらに気が付いて微笑んでくれた。
あ。大丈夫そう。
「ピギッ。」
ヒヨコもどきがこちらを向く。
すると小さな目を見開いて私の腕に飛び乗ってきた。
「え。ちょっ。」
治療は?もういいの?
慌ててクルビスさんを見ると深々とため息をつきながら頷いた。
あ。いいんだ。
ホッとして腕を上ってこようとするヒヨコもどきを捕まえる。
「こらっ。ジッとしてなさい。」
治ったばかりなんだから。
手の平の上に戻すと、身体をプルプルして毛づくろいを始めた。
「もういいのかな~?」
「プギッ。」
メルバさんが手元を覗き込むと、ヒヨコもどきがふんぞり返った。
やめなさい。手から落ちるから。
「ふふっ。一応大丈夫みたいだね~。でも、なんでご飯食べなかったんだろうね~?」
メルバさんがヒヨコもどきの頭を撫でつつ聞いている。
確かに気になる。何かの病気だったのかな?
「恐らく、ハルカに会うためだと思われます。」
クルビスさんがメルバさんに答える。
…私?
「私にですか?」
「ああ。倒れてた所をハルカに拾われただろ?同じ状況になれば会えると思ったんだろう。」
え。それで食べなかったの?
ストライキってこと?
「…何だかそうみたいだね~。ストライキ起こしたんだ~。君~。」
メルバさんが苦笑しながらヒヨコもどきに話しかける。
「プギィイ…。」
メルバさんの問いかけに力なく鳴く。
何だか返事してるみたい…。
(ええっ。じゃあ、ホントに自分でやったの?この子。)
この子ってセパっていう動物のヒナなんだよね?
セパってすごく賢い動物なのかな?