69.呼吸(遥加・ルシェリード視点)
深呼吸しながら手の中のヒヨコもどきに集中する。
そうやって数分経った頃…。
「ピギ…。」
小さな泣き声にハッとして見ると、黄色い毛玉がモゾリと動いた。
クルビスさんを見ると、頷いている。
(…良かった。治療が利いてる。)
安心と同時に気を引き締める。
まだ始めたばかりだから油断は出来ない。
ヒヨコもどきも少し動いただけだ。
後もう少し…。
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「共鳴が早くなったな。」
孫と嫁が共鳴し合うのを見ながら、森で出会った日を思い出す。
あの時より練度も高く、早さも上がっているのは気のせいではないだろう。
「ハルカちゃんの訓練始まったからね~。昨日1日だけしか見てないけど、あの子呼吸がすごくしっかりしてるんだよ~。魔素の把握も移動も初日でマスターしちゃって~。」
「何だと…。早すぎるだろう。」
1日でなど、聞いたことも無い。
ハルカは故郷で術士のようなことをしていたのか?
「どうもね~。ハルカちゃんの故郷では、呼吸の仕方が確立されてるらしくて、そのせいみたい~。小さい時から訓練してたみたいだよ~?」
呼吸の仕方が…。それなら納得がいく。
呼吸が乱れれば集中も乱れ、己の中の魔素の統制が取れなくなる。
そして、魔素が乱れれば身体能力の操作にも影響が出るため、技術者・術士はもちろん戦士にも呼吸の習得が求められる。
現に、どの職でも2級以上の資格を持つ者は自分なりの呼吸法を習得している。
だが、この呼吸の習得には個体差が大きく、きっかけをつかめるかどうかは『運』だとも言われている。
それが確立されているのか…。
「…大丈夫。あの子は教えてくれるよ。」
俺の心中を読んだかのようにメルバが話す。
こいつがそう言うなら、そうなんだろう。
「そうか。なら、後で教えを乞わねばな。」