68.黄色い毛玉
「おはようございます。」
「おっはよ~。良く眠れた~?」
「はい。」
朝食を終えて鍛錬場に行くと、すでにメルバさん、ルシン君、ルシェリードさんがいた。
なぜかクルビスさんもいたけど。
「おはよう。ハルカ。わざわざすまんな。今日の要件はこいつだ。」
ルシェリードさんがそっと差し出した手の上には、黄色い毛玉が乗っていた。
んん?毛玉?
「セパのヒナだ。森で拾っただろう?」
クルビスさんの説明でその毛玉がヒヨコもどきだとわかる。
なんで毛玉だと思ったかと言うと、顔も爪も見えなかったからだ。
「…寝てるんですか?」
あまりに微動だにしないヒヨコもどきに心配になってくる。
記憶の中の寝ているヒヨコもどきは呼吸でもっと身体が動いていた。
「一応な。それが問題なんだ。」
ルシェリードさんを見ると、困り切った感じで話をしてくれた。
私がこっちに来た日、ルシェリードさんはヒヨコもどきを連れて帰ってくれた。
それで次の日にはセパ専属の飼育係さんに預けたそうなんだけど、どんどんご飯を食べなくなっていったらしい。
あんなにがっついていたのに?
「それで昨日から寝たまんまなんだって~。魔素消費を抑えるためみたいなんだけど、それもいつまでも持たないからね~。」
メルバさんの説明にますます心配になる。
それってこのまま目覚めないってこと?そんなっ。
「それでね~。森の時みたいに、ハルカちゃんとクルビスくんに共鳴で治療してもらいたいんだよ~。」
ああ。そっか。森のでも気を失って落ちてたのを拾ったんだった。
それでクルビスさんにお願いして治療してもらったんだよね。
「クルビスさん。」
クルビスさんは頷いて両手を差し出してくれる。
あの時みたいにクルビスさんの手に重ね合わせると、その上にヒヨコもどきがそっと置かれた。
(…あの時と一緒だ。ううん。もっと弱々しい感じがする。)
手の平から伝わる感覚に血の気が引く思いがする。
森で見つけたときもかなり危ない感じだったのに、もっと弱ってるなんて。
「ハルカ。」
クルビスさんの呼ぶ声にハッとする。
視線をヒヨコもどきからクルビスさんに戻すと、穏やかな目に安堵する。
「大丈夫だ。すぐに元気になる。」
その言葉に自分が泣きそうになってたことに気付いた。
そうだよね。今は治療の最中。しっかりしなくちゃ。
「はい。」
もう大丈夫だと笑うと、クルビスさんも微笑んでくれる。
大丈夫。ちゃんと治るんだから。