7. ゴムは蜜
「えっと、こちらにもゴムってあるんですか?」
「ええ…。ただ、同じ物かわかりませんね。実物を見て頂くほうが早いでしょう。」
あ、そうですね。
名前が同じっていうだけかもしれませんし。
私が頷くと、フェラリーデさんは立ち上がって壁際の戸棚に向かった。
目的の物はすぐに見つかったらしく、手に何かを持っている。あれがゴムかな?
「こちらがゴムです。ハルカさんが仰るゴムと似ていますか?」
差し出された物は、ツヤがあってスケルトンブルーの色をしたひもだった。
…触ってみないとわかんないかな。
「あの、触ってみても良いですか?」
「ええ。もちろん。」
私のお願いに、フェラリーデさんが快く返事をしてくれる。
それを聞いて、胸に手を当てて軽く会釈し、ブルーのひもを手にとってみる。
手触りはスベスベしてる。私の知ってるゴム特有の抵抗は感じられない。
力を入れずに指先だけでひもを持ってみる。そのままひもを引き抜くと、ほとんど抵抗なくひもは引き抜かれた。
…すごい滑らか。
絹のひもだったらこんな感じなのかな?
「いかがですか?」
「ずいぶん滑らかですね。スベスベしてます。」
「ええ。カジュという花の蜜から作ります。本来は無色透明なのですが、これは染料で染めてありますね。」
蜜?これ花の蜜から出来てるんですか?
へぇ〜。なんか高そう。
確か、地球のゴムは木の樹液だっけ?
樹液と花の蜜かぁ。似てるようで、えらい違いだなぁ。
でも、花の蜜なら無色透明でも納得。
なら、伸縮性は?私が1番知りたいのもそこ。
引っ張ってみると、ミニョ〜んと効果音がつきそうな軽さでブルーのひもが勢いよく伸びる。
驚いて力を抜くと、ひもはすぐに元に戻った。
ああ。ビックリした。
伸びるのは伸びるけど、なんて柔らかいんだろう。
(地球のゴムとは似てるようで違うなぁ。これが異世界のゴムかぁ。)
感心しながら何度も伸び縮みさせてると、ふと、ある事が気になった。
「あの、これって結ぶことは出来るんでしょうか?」
「ええ。可能です。ただ、ハルカさんが仰ったように、表面が非常に滑らかなものですからあまり長くは持ちませんが。」
フェラリーデさんが興味深そうにこちらの質問に答えてくれる。
成る程ねぇ。そりゃこれだけ滑らかならそうか。
「そうですか…。伸縮性があるのは故郷のゴムに似てるんですが、表面は故郷のゴムの方がはるかに抵抗力があります。」
私は自分の髪をまとめてるシュシュを外す。
それを見せながら、フェラリーデさんに説明を続ける。
「この髪飾りの中に輪っかに結んだゴムが入ってます。ただし、これは髪留め用なのでゴムを布でくるんでますが。」
シュシュの中に入っている髪ゴムを出しながら説明する。
結び目のところを見せれば、端っこから中の白いゴムが見えてるから、わかりやすいと思う。
「…成る程。ゴムの周りを布でくるんでしまえば、布で止まりやすくなりますね。」
フェラリーデさんが真剣な顔で髪ゴムを見ている。
差し出し続けるのもしんどくなってきたので、フェラリーデさんに手にとって観察してもらうことにした。
「それで、伸び縮みするところは似てるので、結ぶことが出来れば、端切れを使ってそのシュシュのような髪飾りも作れますし、そのゴム自体が良い髪留めになるなと思ったんですが…難しそうですね。」
私がため息と共に考えてたことを言うと、フェラリーデさんが顔を上げた。
「いいえ。これならすぐにでも出来るでしょう。朝の支度が楽になります。」
ホントですか?
というか、フェラリーデさん。最後のが本音じゃありませんか?