65.差し入れ成功
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こつこつ
「は~い。どなた~?」
「ハルカです。差し入れを持ってきました。」
「ああ。どうぞ~。」
返事を確認して、ドアを開ける。
中にはメルバさんと…本のタワーが見えた。
え。もしかしてあの奥にルシン君いるの?
「ちょうどキリが良さそうだし、そこまで終わったら休憩にしようか~。」
「はい。」
メルバさんがタワーに向かって話しかけている。
あの声、やっぱりルシン君いるんだ。
「お茶を入れましょう。」
フェラリーデさんはそう言って、手近なベッドからサイドテーブルを持ってきて、そこにお菓子を乗せたお盆を置いた。
医務室に入ってお一人だったフェラリーデさんに挨拶をすると、お盆をヒョイと持ってくれたんだよね。
山盛りのお菓子って結構重量があって、腕がつらかったから助かりました。
目がどら焼きに吸い寄せられていたのは見てましたけどね。
「メルバさんにも試食してもらうつもりなんで、フェラリーデさんもどうぞ。」と声をかけると、光り輝く微笑みをいただきました。うぐっ。
美形の満面の笑みは致命傷になります。
「それ、もしかして『どら焼き』~?」
ダメージの回復にお菓子を見てると、メルバさんがそのお菓子を見て声を上げた。
知ってるんだ。あー兄ちゃんが作ったのかな?
「あーちゃんが中身をクリームで作ってくれたよ~。餡子が作れないってぼやいてたけど~。」
クリームどら焼き…。
いや、クリームだけなら別物かな?
メルバさん達が元いた世界には小豆みたいな豆がなかったみたいだ。
…あー兄ちゃん、異世界でいろいろ作ってるなあ。
「これは中身が餡子です。先程食べていただいたやつで、こしあんのみにしてあります。」
「…出来ましたっ。」
「お~。やっぱりご褒美があると早さが違うね~。」
タワーに近づいて行くと、入口側につみあがってただけで、タワーの奥は机で勉強しているルシン君の姿があった。
良く見ると、タワーの下は大きな木箱でその上に本が積みあがっていた。
積み合った本のほうに驚いて、良く見てなかった。
本自体は10冊くらいかな?布の装丁のしっかりした本だ。
「失礼します。お茶が入りました。」
「ありがと~。ディー君も休憩しよ~?今、空いてるし~。」
「はい。そう思って私の分のお茶も用意いたしました。」
「ふふ。そう~。じゃあ、こっちのテーブルも持ってきて…。よし。ルシンこっちにおいで~。
ハルカちゃんもここに座りなよ~。」
メルバさんがもう1つのサイドテーブルとイスを持ってきて、フェラリーデさんがテキパキとお茶の用意をする。
ルシン君は、目を輝かせて食い入るようにお菓子を見てる。
「さて~。いただこうか~。」
「きれいです…。」
ルシン君が取り分けられたスイート豆を見たなと思ったら、一瞬で食べきった。
早っ。瞬間芸ですかっ?
それに、なんだか目を見開いてるんだけど…。
何だろ?口に合わなかったのかな?
「こちらのお菓子は…パンですか?」
「あ。そうです。中に餡子が詰まってます。」
「どら焼きって言うんだって~。」
フェラリーデさんからの質問に慌てて答えると、メルバさんが補足してくれた。
ありがとうございます。食べ方も相変わらず美しいですね。
「…美味しいれす。」
…れす?
あ。ルシン君か。
…何だか、瞳がうるうるしてるような。
人間よりな顔立ちだけど、基本、爬虫類系のパーツだから正確にはわからない。
だけど、うるうるしてる気がする。
美味しいって言ってくれたんだよね?
「美味しいですっ。もっと食べていいですかっ。」
「え、ええ。どうぞ。」
口にあったみたい。
良かった。差し入れ成功かな。