64.差し入れ完成
「さて、皮が冷めたら餡をこれくらい…出来ました。」
「簡単だな。」
「小さめですから、子供にも食べやすいですわね。」
「ええ。だから、私の故郷では日常的なおやつでした。」
どら焼きを作りながら口ぐちに感想を言う。
やっぱりこういうタイプのお菓子は無いみたいだ。
まあ、手で持つって衛生的じゃないしね。
食べやすいんだけどなあ。
ルドさんはすぐに戻ってきて、皮をてきぱきと焼いてくれた。
驚いたのは、生地の種を入れてる器のごつさ。
大きさは小さめの小包くらいで、見た目はどんな兵器いれてるんですかってくらいごつい。
しかも、中の容器部分は片手に乗るタッパーくらい小さかった。
魔素を逃がさないための特殊なもので、一般には出回ってないとか。そりゃこんだけごつけりゃねえ。
ここの食堂では大量に作るため、余りも結構出るのでその保存に使っているとか。
その余りは新しいメニューの創作だったり、調理の方々の食事に使われるらしい。
要するに、まかない用の保存ってことだ。
もうちょっとコンパクトになればいいのに。
真空パック袋みたいなのになれば、家庭でも便利だよね。
まあ、そんな風に驚く私を尻目に、ルドさんはてきぱきと皮を焼き始めた。
手で持てる大きさだって言ったからか、ちゃんと手で持ちやすいジャストサイズで作ってくれました。
プロすごい。
「そういえば、小さい頃、家に帰ってきて食べようとしたら、手を洗いなさいって怒られたりしたんですよね…。」
「「手を洗う?」」
懐かしいですって続けようとした私にお二人の声がかぶさる。え。何この反応。
ルドさんとリビーさんがそろって不思議そうに私を見てる。でも、お二方とも、私と一緒に作る前に手を洗ってましたよね?
「ええ。何か食べる前には手を洗いませんと、お腹を壊してしまいますし。」
「何か作業をしていたり、汚れていたら洗いますけど、食事のたびには洗いませんわねえ。」
「調理部隊は洗うが、他の隊士はせいぜい消毒くらいだな。」
ん?消毒?
手を洗わないのに消毒はするんですか?
「作る前に塗りこんだだろう?」
そうルドさんに言われて、メルバさんに差し出された葉っぱを思い出す。
あのアルコール替わりの葉っぱですね。トイレにも置いてある。
もう慣れちゃったから、あんまり意識してなかった。
消毒してるなら、積極的に手を洗う習慣はないかもね。
成る程。習慣の差は、あの便利な葉っぱのおかげか。
日本ではアルコール用意するより、手を洗った方が早いもんね。
「ああ。そういえば。あれって消毒してくれるんでしたっけ。
便利ですよねえ。故郷にはそういうものは無かったので手を洗ってたんです。」
そんな感想を言いながら出来たどら焼きをお皿に乗せていく。
今回は餡は評判の良かったこしあんのみです。
自分用に紫の粒あんのを作ったら、ルドさんとリビーさんも自分用に作ってました。
すごい探究心だなあ。
3人で作るから、あっという間に出来上がった。
というか、ルドさんがものすごい速さで作っていた。
さすがプロ。
あっという間にコツをつかんだみたい。
「よし。この新作もキーファに持っていこう。
あいつなら的確に判断する。いつも試食に付き合ってくれるんだ。」
そうなんですか。味のわかる方なんですね。
キーファ副隊長は食いしん坊っと。
「その前に食べてみたいですわっ。」
「そうだな。試食してみるか。」
「ええ。美味しそうですねえ。」
そんなことをいいながら、それぞれ1口。
うん。美味しい。皮がふっくらとしてて、餡と混ざって良い感じだ。
「皮に甘みがありますけど、それが邪魔になりませんわね。」
「むしろ、バランスがいい。味無しだと、最初の1口が味気ない物になっただろう。」
うん。なかなか好評。
これも、ルドさん作の皮が素晴らしいからだけどね。
「紫の方が好みですが、ピンクも美味しいですねえ。皮がふっくらとしてて、ちょうどいいです。ルドさんすごいですね。」
「ええ。ふっくらした皮と餡の甘さが絶妙ですわ。紫もピンクもいけますわね。粒のも、こちらで食べるとまた違いますわ。」
「ありがとう。俺は紫の方が好きだが、確かに、粒の食感と皮の柔らかさが相まって、印象が変わるな。これだと紫は粒とこしたのを両方用意しても受けそうだ。」
おお。粒あんも好評だ。
やった。個人的にはどら焼きは粒あん派なんだよね。うれしいな。
「これなら、差し入れに出来ますか?」
「ええ。喜びますわ。」
「ああ。キーファも満足するだろう。」
よかった。差し入れに出来そう。
ルドさんが手早く作ってくれたからそんなに時間経ってないし、差し入れに行こうか。