63.どら焼き
「うん。もういいかな。」
「まあ、綺麗な焼き目ですわねっ。」
「成る程。卵の黄身で艶が出たんだな。」
出来上がったスイートポテト…もとい、スイート豆をプレートごと台の上に乗せる。
プレートの上には黄金色に輝くお菓子が並んでいた。大量に。
「にしても、作り過ぎちゃいましたかね?」
どうみてもざっと50個ほどはあるんですが。
ここのオーブンプレート、業務用だから大きいし。
「大丈夫だ。ドラゴンの子は良く食べる。」
「ええ。これくらいペロリですわよ?」
ええっ。入るの?これ全部?
まあ、食事の時もすごい食べっぷりなの見てたけど。
おやつも大量に食べるんだ…。
やっぱりドラゴンだからかなあ。本体に見合った量がいるってこと?
「入るんですか…。」
「ふふっ。あ。そうですわ。よろしければ、5つほどいただけませんこと?キーファに差し入れしてあげたいのです。」
キーファ?って、ああ、あのメガネの副隊長さんっ。
印象的だったからすぐに思い出せた。
「キーファにか?」
「ええ。正確には、キーファと部下の方々に。キィ様のかわりに書類に埋もれてましたから。
あれは恐らく寝てませんわねぇ。」
ルドさんの質問にリビーさんがのほほんと答える。
え。徹夜で仕事って…。そんなに忙しいんだ。
キィさん、試食に来てる場合じゃないじゃないですかっ。
そういうことなら、甘いもの差し入れした方がいいかな。
「そういうことなら、お好きなだけ持って行って下さい。ルシン君にはこっちの餡子もありますし。」
「かき氷は持っていかないのでしょう?」
「ええ。皮を焼き上げて包むんです。」
「「皮?」」
ルドさんとリビーさんの声が重なる。
あれ?こっちではこういうスイーツってないのかな?
「えっと。ルドさん。今日の朝食べた、平たいこれくらいの…。」
パンって言って通じるかわからないから、手振りで大きさを示しながら説明する。
幸い、ルドさんはわかってくれた。
「パンのことか?」
あ。パンでいいんですか?
何だ。考えすぎかあ。
「ええ。そのパンってすぐに作れますか?」
「ああ。種はまだあるし、後は焼くだけだな。」
「えっと。その種、すこしだけ分けていただけませんか?」
私がお願いすると、ルドさんは腕を組んで考え始める。
マズかったかな?食堂の材料を勝手に使わせてくれってお願いしてるんだし。
「…それで何を作るんだ?」
「え。あ、これくらいの手の平サイズの大きさに焼いて、中に餡子を挟みます。」
「ケーキですの?」
え。どら焼きってケーキになるっけ?
たしかに生地はふわりとした食感だけど…。
「えっと、私はケーキとは思ってません。これのいいところは、手に持って食べられるところです。」
「成る程。だが、それなら専用に生地を作った方がいいんじゃないか?あれは蜜が入っている。」
ああ。生地の味のことですね?
大丈夫。朝食べた時にほとんど甘みを感じないくらいだったのは確認してる。
だから、蜜を大量にかけて食べたんだし。
美味しかったなあ。
「大丈夫です。もともと甘みをつけた生地を使いますし、朝食べた時に確認しましたが、あれくらいの甘みで充分です。」
むしろ1から作らなくていいから理想的。
明け方に起きた時、メルバさんとスイーツの話をしてたのを思い出してたから、朝食も観察しながら食べてたんだもんね。
「いけるんだな?」
「はい。」
「よし。すぐに作ろう。種を取ってくる。」
そう言ってルドさんは隣の厨房に入って行った。
あそこ棚か何かだと思ってたら、ドアだったんだ。
開けた途端、いっせいにルドさんに挨拶する声が聞こえたからメインの厨房なんだと思う。
出来たんですか?って聞かれてたし。
「それも、いいんですの?」
え。何が。
…もしかしてどら焼きのことですか?
「どら焼きのことですか?」
「どらやき?といいますの?そのスイーツは。」
「ええ。」
私が返事をすると、リビーさんはそれをまたメモに書き込んでいた。
どら焼きなんだけどなあ。
「これも作り方を書いてもよろしいのね?」
ああ。そういうことですか。
いいですよ。生地は作り方知りませんけど。
「いいですよ。ただし、皮の生地についてはルドさんに聞いて下さい。」
「それは大丈夫ですわ。あれはわたくしがルドに教えたものですから。
あの生地はわたくしの里の名物ですの。」
え。そうなんですか?
じゃあ、あのパンってそんな一般的じゃないのかな?