別話 中央の動き(クルビス視点)
「さて、もういいぜ。」
キィが音を遮断する術式を展開し、それを確認してから話し始める。
俺の執務室まで来たから、外から聞かれる心配はほとんど無いが念のためだ。
聞かれてはマズい話もある。
特に中央の話はな。
仕事はシードに任せてきている。
もう少しなら時間に余裕があるだろう。
「俺の報告の後、何か動きは出たか?」
「おお。あった。あった。怪し~行動してんのが。あれでバレてねぇつもりかねえ。」
キィが苦笑いしながら言うが、キィでなければわからなかったことだろう。
中央は各一族の代表やそれに伴う派閥もあってややこしいからな。
一族以外立ち入り出来ない場所もあり、北のように好きに調査するわけにもいかない。
その点、キィは北の守備隊の術士部隊隊長でありながらスタグノ族、青の一族の族長の家系だ。
シーリード族は実力主義で、一族でもっとも能力の高いものが長となるが、種族の特徴の関係で家系で代表の職を引き継ぐ一族もいる。
スタグノ族、フェラルド族、カメレオンの一族などがそれにあたる。
そのためキィは権限も多く、中央に出入りできる者の顔も知ってるし、面会出来る数も見聞き出来ることも多い。
だから、一昨日のような異常事態のあった場合は、中央の様子を見てくるのはうちではキィの役割になっている。
術士部隊はよく駆り出されるから不自然でもないしな。
今になってわかるが、親父が北にいた時、キィを隊長に押したのにはこういうことも理由に入ってたんだろう。
「とりあえず目立っておかしかったのは、カメレオンの一族とイグアナの一族だなあ。
昨日の昼にカメレオンの長の御付きのジーさんが顔色なくして中庭の端をうろうろしてたし、イグアナの長の弟のアズール殿なんかはお取り巻きの連中と一緒になんか企んでるみたいだったぜ。」
軽い口調だが、物事の本質を見抜き、集めた情報から事実をつかむのに長けている男だ。
普段から張り巡らせている情報網と自身の目で確かめた上での判断だろう。
しかし、よくそこまで調査出来たな。
術士部隊は北以外は中央に出てこれなかったと聞いている。
大混乱で手が足りなかったはずだが。
「一昨日はともかく、昨日は昼からは自由にさしてもらったからな。メラ様のおかげだよ。」
俺の考えを読んだかのようにキィが答える。母さんがそんなことを?
ということは、母さんも何か知ってるのかもな。
だが、自分は多忙だから動けない。そこで、キィを…というところか。
術士部隊を半分行かせたかいがあったな。
「そ~いや、クルビス。お前ぇ、逃げたんだってな?メラさまがぶつくさ言ってたぜえ。」
にやにやしながらキィが言う。
昨日報告が終わったらすぐに帰ったから、そのことだな。
「ハルカさんのことをルシェリード様に聞いて、「絶対会いに行く。」って言ってた。たぶん事後処理が終わったらすぐだな。」
違った。そっちか。
来るのか…面倒な。
会うたびに見合いを勧められるものだから、最近は実家どころか中央にも寄ってなかったからな。
会ったら何を言われるやら。
ふと見ると、キィが上を見て口を押えてる。
吹き出す寸前だな。
俺の災難を面白がりやがって。
だが知らせてもらえて良かった。
母さんも数日は動けないだろうが、その後はいつ来るか正直わからない。
その前にハルカに先に話しておかないと。
だが、何と言って話そうか。