62.知らないうちに
クルビスさんの言ったことは良くわからないまま、クルビスさんとキィさんを見送った。
厨房に戻ると、リビーさんがキラキラした目で迎えてくれる。
「あれだけでクルビス隊長を鎮めてしまわれるとは。さすがですわ。」
…何のお話でしょう?
え?リビーさんにはさっきのクルビスさんの言ったことわかるんですか?
「あれだけ…とは?リビーさんはさっきのクルビスさんの言ってたことわかるんですか?」
「あら…。無意識でしたの?」
「え?私、何かしましたか?」
意味がわからない。
何のことだろう?
「成る程。クルビスが負けるわけだ。」
ルドさんが面白そうに言う。
え。ホントにわかんないんですけど。教えて下さいよ。
「え。あの。ホントに何したんでしょうか?クルビスさんに失礼なことをしてなければいいんですけど。」
「とんでもないですわっ。むしろいいことをなさいましたのよ?」
そうなんですか?
リビーさんが手招きするので厨房の入口から厨房台の方に移動する。
「先程、キィ様がおいたをなさって、クルビス隊長のご機嫌を損ねてしまいましたでしょう?」
ああ。はい。やっぱり寒気の正体ってクルビスさんでしたか。
にしても、おいたって…。古風な言い回しだなあ。
「その時、ハルカさんの魔素がクルビス隊長をなだめましたのよ?」
「え。魔素ってそんなことも出来るんですか?」
「出来ない場合の方が多い。相性がいいのだろう。」
ルドさんも聞いてたんですね。
てか、聞こえるか。厨房広くないし。
相性かあ。よく言われるけど、そんなに?
私とクルビスさんってそんなに相性いいんだ?
「相性ですか…。」
「それだって、お互いの気持ちが向き合ってないと意味を成しませんわ。
無意識に、自然になさったのがすごいのです。」
リビーさんが私に言い聞かせるようにゆっくりと話す。
たぶん珍しいことなんだ。そのことはわかってた方がいいな。
「そうなんですか。実感はありませんが、私、クルビスさんをなだめることが出来たんですね。」
私が確認するように言うと、リビーさんもルドさんも頷いた。
そっか。お互いの気持ちが向き合ってないといけないのか。
(じゃあ、クルビスさんの気持ちは私に向いてるんだな。)
ホッとしたやら恥ずかしいやら。
でも、安心したのが1番かな。
気持ちって信じるだけで確かめようがないから。
いえ。クルビスさんは信じてましたけどね?
でも、不安は尽きないから。
「お。そろそろいいな。」
あ。豆がゆであがった。
よし。じゃあ、頑張ってるルシン君に差し入れ作ろうか。