61.差し入れを作ろう
「さて~。僕はルシン見て来るよ~。課題進んでるかな~?」
え。ルシン君お勉強してたんだ。
リビーさんとの自己紹介とかいろいろあって、聞きそびれてたんだよね。
「あ。じゃあ、この黄色いの差し入れに…。」
私の視線の向かった先には…プレートしかなかった。
無くなってる。さっき見た時は3つくらいあったのに。
「…無いね~。」
「…無いですねえ。まあ、少ししか作ってませんでしたから。」
犯人はわかってるんですけどね?
ねえ?キィさん?
ちらりと見ると、リビーさんにつねられて叱られていた。
あ、他の方も呆れて見てる。キィさんの仕業だってわかってるんだな。
えっと、じゃあ、かき氷…は子供には苦いかな?
抹茶だしなあ。
私がペンギンさんを見て考えてると、ルドさんがコンロに鍋をのせる。
「もう一度作ってみたいんだがいいか?そっちはあまり見れてなかったから、作り方があっているか確認して欲しい。」
ルドさんっ。大人な気遣いが素敵ですっ。
私は「はいっ。」と返事して、さっと材料の確認をする。
うん。ミルクもバターもまだまだあるし、バターも溶けたりしてない。
後は…。あ、手順が違うんだった。
さっきは甘みを付けた後で調整したけど、本来スイートポテトって、ゆでてつぶして、その後にミルクやバターと一緒にお砂糖を加えるんだよね。
「本当はゆでたら先につぶすんです。先程とは手順が少し違うんですが、その方が美味しく仕上がります。」
「成る程。さっきは甘みを先につけたからな。」
私が手順の変更を伝えると、ルドさんはすぐに私が何を言いたいのか察してくれた。
さすがプロ。手順の意味も良くわかってるんだろうなあ。
「ふふっ。ルシンもきっと喜ぶよ。じゃあ、出来たら上に持ってきてくれる~?昨日の部屋にいるから~。」
エプロンを外しながらそう言って、メルバさんは厨房を出て行った。
それをきっかけに隊長さんたちもそれぞれ部屋を出ていく。
「私も医務局に戻りますね。ハルカさん、とても美味しかったです。気軽にスイーツを楽しむというのには感動いたしました。お手伝いできることがあったら言ってください。」
最初にフェラリーデさん。ありがとうございます。
とりあえず、微笑みの輝き度合いを下げていただけると助かります。目がつぶれそう。
「本当に美味しかった。これでこの後も頑張れそうだ。」
よかった。私が作るものでもクルビスさんの口に合って。
魚介や抹茶に馴染みがあるとか、甘すぎるのは苦手って知ることが出来たし、今日は収穫が結構あったなあ。
「ぶはっ。」
キィさんが上を向いて口を押えてる。
もしかして噴き出したのかな?笑う所あったっけ?
「もうっ。お邪魔してはいけませんわっ。」
リビーさんがキィさんに怒ってる。
え?何で?
「…キィ。話がある。来てくれるか?」
ゾワッ
何か寒気が…。
かき氷で冷えたかな?
「違う違うっ。俺はな?微笑ましいと思ってだな…。」
「来てくれるか?」
「行きます。」
キィさんが何か言おうとしたのをクルビスさんが遮る。
何だか寒い。
…うん。お二方ともこれからお仕事なんだ。頑張って下さい。
詳しくは突っ込まない。そのほうが良さそうだから。
「わたくしはもう一度作り方を見学してますわ。違う箇所を確認したいですし。」
あ。リビーさんも逃げた。
そりゃあ、この空気からは逃げたいよね。
「では。私はこれで。」
そそくさとフェラリーデさんが厨房を出ていく。
素早いですね。いつもはゆったり優雅に移動されるのに。
「…。」
ルドさんは鍋を見ていて、こっちを見ようともしない。
えっと。どうしようかな。とりあえずお二方には出て行ってもらおうか。
「えっと。試食してくれてありがとうございました。クルビスさん。この後もお仕事頑張って下さいね。」
にっこり笑ってドアを開ける。
さあ、お仕事に行って下さいな。
「…ああ。今日は良いことが続くな。頑張れそうだ。」
良いこと?ですか?
はて。何だろう。