55.緑のペンギン
抹茶ソースはあっという間に出来た。
ま、抹茶と砂糖をちょっとの水に溶かして煮れば出来るもんね。
ルドさんの意見を参考に、抹茶は少な目で風味が残るくらいの量にしました。
だから、お茶の香りのする甘いソースになったはず。
抹茶について話してる間にスイートポテトも出来たし。
ちょっと焼き目が少ない気もするけど、艶だしの卵を塗ってないし、こんなもんかな。
さて、ソースが冷めるのを待つ間にかき氷を作りますか。
もしかして、かき氷機とかあるのかな…。
「あの、かき氷ってどうやって作ってるんですか?」
「かき氷機を使う。これだ。」
やっぱりあるんだ。
ルドさんが戸棚からかき氷機を袋ごと出してくれる。結構小さいなあ。
袋から姿を現したかき氷機は、見慣れた形だった。
丸い頭、つぶらな瞳、少しだけ横に突き出したお手てがラブリ-。
かき氷機はかわいらしいペンギンさんだった。緑の。
「…。」
無言でメルバさんを見る。
メルバさんは満面の笑みだった。何このドヤ顔。
「可愛いでしょう~?あーちゃんが残したデザインから起こしたんだ~。
かき氷を食べるのって一部の一族だけだからさ~。大きいのいらなかったんだよね~。で~、それなら、可愛いのがいいかなって~。」
あー兄ちゃん~っっ。
余計なとこまで垂れ流さなくていいからっ。可愛いけどねっ。それよりっ。
「何で緑色なんでしょう。兄のデザインでは黒か紺じゃありませんでした?」
「うん。紺だった~。これは全部で7色あるんだよ~。赤、黄、緑、青、紺、紫、黒~。黒と紺が人気かな~。」
7色ですか。虹みたい。
異世界カラーじゃなかった。単なるバリエーションでしたか。
しかも、黒が入るんだ。
良い色って言ってたもんなあ。人気みたいだし。
「7色って多いですねえ。」
「ここでは最低4色が製品を出す時の基本だよ~。自分の色に合わせたいって要望が多くてね~。」
私が思わずもらした感想にメルバさんが説明してくれる。
そっか。こっちでは自分の色がラッキーカラーみたいな感じなのか。
「じゃあ、色は多い方がいいんですね。」
「そうそう~。後は強い色とか人気だよ~。黒は不動の1番だね~。」
「わたくしも黒を持ってますわ。3ヶ月待ちでしたの。」
メルバさんの説明にリビーさんが補足してくれる。
3ヶ月待ちって…すごいな。黒人気。
黒が特別ってここでも影響するのかあ。
う~ん。これは外出るときは、自分で思ってるよりも気をつけたほうがいいかな。
私も髪が黒だけど、見た目弱わそうだからなあ。実際弱いし。
変に目立って、なんか絡まれそうな気がする。
「俺も黒は持ってる。まあ、これは備品だからな。余ったのを譲ってもらったんだ。色違いであと4台ある。」
ルドさんも黒を持ってるんですか。
備品だから緑なんだ。人気ないのかなあ。緑。
一応の納得をしつつ、初めて見る緑のペンギンさんをしげしげと眺める。
最初は驚いたけど、これはこれでかわいい。
「黒って人気なんですねえ。緑もかわいいと思うんですが。…これ、どうやって動かすんですか?」
取っ手が見あたらないんだよね。
どうやってかき氷を作るんだろう?
「魔素を流すんだよ~。自動で削ってくれるから~。」
「自動ですか。便利ですねえ。」
こんなとこにも便利さが。
魔素ってすごいなあ。
「ルシェモモはあらゆるものが自動化されている。魔素がちゃんと使えればたいていのことは自力で出来るな。住むには事欠かない。」
私が感心してると、ルドさんが穏やかに説明してくれた。
そっか。魔素がちゃんと使えれば暮らせるんだ。訓練頑張ろう。
「ふふっ。この街に初めて来た子は皆驚くよね~。リビーもそうだったでしょ~?」
「ええ。水はどこでも簡単に出るし、室温も調節できるし、火が無くても温められる調理器具まであって。驚くことばかりでしたわ。」
水道とエアコンと電気調理器具ってとこかな。
水道とエアコンは知ってたけど、電気調理も出来るんだ。
「便利なんですねえ。」
「ええ。家事がこんなに楽な街はありませんわ。」
リビーさんが頷きながら返事をしてくれ、ルドさんもメルバさんも頷いている。
この様子だと、この便利さはこの街限定なんだな。
他の場所じゃあこうはいかないんだろう。覚えとこう。
まあ、ここ以外で暮らす気ないけどね。