52.派手豆
「そろそろいいだろう。」
ルドさんが鍋をコンロから下す。
豆が煮えたんだ。甘い匂いが鼻に届いて頬が緩む。
「綺麗だね~。」
「ほんと。色とりどりで食欲をそそりますわ。」
確かに。食感で選んだ豆たちはベリーピンクにセルリアンブルーに山吹色、それに明るめの濃い紫色だった。
この紫ってなんて言えばいいんだろう?パープルかな?
目に痛いくらいに鮮やかな豆がそろったけど、これはたまたま。
ほとんどはモノトーンや赤系や緑系などの落ち着いた色ばかりだったし。
なんでだろう。不思議だなあ。
メルバさん曰く、これらの豆は種類としては『トラット』っていう同じ種類の豆みたいだから、色が派手なのは特徴なのかも。
よし、勝手に命名『派手豆』。
わかり易くていいや。これからスイーツ作るたびに買うことになりそうだし。
まあでも、見た目がきれいな色なのはいいことだ。
これで味が良ければ文句ないんだけどなあ。
「ほら。食べてみてくれ。」
「ありがとうございます。」
ルドさんが取ってくれた4種の豆を順番に口に入れる。
ん。ピンクは結構あっさりしてる。美味しい。
ブルーは…何だかクセがある。
アクがあるっていうか、この味が気になって甘さを楽しめない。
山吹は1粒1粒が大きくて、煮ると甘みの強くなる豆だったらしいけど、砂糖を加えたことによって強烈に甘くなっていた。
う~ん。これは砂糖より塩を利かせたほうが甘みが引き立つかも。
サツマイモっぽいなあ。スイートポテトみたいに使えばいけるかな?
でも、餡子には向かないな。
最後の紫は…滑らかに崩れる中身、噛んだ時の皮の感触、まろやかな甘さ。うん。これだ。
ちょっと味が違うんだけど、ピンクと紫は餡子に向きそう。
ブルーはこのアクをなんとかしないと無理。
山吹はスイートポテト作ってみようか。
確かミルクはあるんだよね?
「ピンクと紫はいけます。黄色は他のスイーツに使えそうですね。青はアクがあってこのままはちょっと…。」
「…そうだな。こいつは独特の風味があって肉料理にはよく合うんだが、甘みには合わなかったか。」
ルドさんも試食しながら感想を言う。
ブルーは肉料理に合うのか。覚えとこう。
「だが、他のはとても優しい甘さになった。これをどうするんだ?」
「えっと、ピンクと紫は少し塩を入れて煮て甘みを抑えます。それから、半分くらいつぶしたものと、全部つぶしてこしたものを用意します。」
「塩?甘くしたのにか?」
「はい。ほんの少しですけど。そうすると甘みが引き立つんです。」
「スイーツに塩を使うのですか。驚きですわ。」
「僕も~。初めて聞いたよ~。ディー君も聞いたらビックリするだろうな~。」
ルドさんやリビーさんやメルバさん達はとても驚いていた。
まあ、わざわざ甘くしといてしょっぱい塩を入れるとか考えないよね。
この場にいないクルビスさんやフェラリーデさん、キィさんも驚くかな。
このお三方にはお仕事があるので、出来上がってから呼ぶことになってるんだけど、その時の反応が楽しみかも。