50.ピンクのカエルさん
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「お茶、美味しかったです。ごちそうさまでした。」
しばらくお茶を飲みながらクルビスさんに日本のお菓子のことを話してたんだけど、私が飲み終わったコップをお盆に乗せると立ち上がった。
「それは良かった。…残念だが、そろそろ仕事に戻る時間みたいだ。」
そう言って、クルビスさんはお盆を持って仕事に行かれました。
貴重な休み時間を私に当ててくれたんですね。ありがとうございました。
ただ、1つ気になることが。
クルビスさんをドアまで見送ったんだけど、その際、声をかけたんだよね。
「いってらっしゃい。お仕事頑張って下さいね。」
それを聞いてクルビスさんは一瞬目を細めたけど、何も言わずに部屋を出て行った。
もしかして、こっちではこういう見送りの言葉って言わないのかな?
でも、クルビスさん何も言わなかったしなあ。
これもフェラリーデさんに聞いておこう。忘れないうちにメモメモ。
カッカッ
私が気になったことをメモしてると、ノッカーの音がした。
誰だろう?
「ハルカちゃん~。入っていいかな~?」
メルバさんだ。
何だろう?…お菓子作りの相談かな。
「どうぞお入りください。」
返事をすると、メルバさんとフェラリーデさん、そして小柄なピンクのカエルさんが入って来た。
もう一度言うけど、ピンクのカエルさん。
ストロベリーピンクの身体にベリーレッドな大きな目のカエルさんだ。
服は私と同じノースリーブのワンピースなのに、ドレープやフリルで可愛らしく仕上がっている。
ドレスみたいだ。
「かわいい。」
あれ。言っちゃった。
思わずつぶやいた自分のセリフに自分で驚く。
でも、ホントにそう思った。
ピンクのカエルさんには驚いたけど、嫌とは思わなかったし。
小柄なのもあるだろうけど、仕草とか雰囲気も可愛らしいんだよね。
服もピンクの体色によく似合っているから違和感ないし。
「あら。お褒めに預かり光栄ですわ。」
ピンクのカエルさんが片足を一歩引いて、礼の姿勢を取る。
それがとても優雅に見えて、思わず見とれてしまった。
「ふふ。可愛いでしょう?ハルカちゃん。こちら、キィ君の伴侶、奥さんのリビーだよ。」
「初めまして。スタグノ族、赤の一族、キィランリースが伴侶、リルクルビースと申します。」
「あ。ご丁寧にありがとうございます。初めまして。里見遥加と申します。どうぞ遥加と呼んで下さい。」
メルバさんに紹介されて、慌てて立ち上がる。
お互いの自己紹介を終えると、リビーさんと目が合ったのでにっこり笑った。
笑顔は挨拶の基本です。
「ふふ。お聞きしていた通り、かわいらしい方ですわね。」
「でしょ~?僕の友達の妹さんでね~。僕の妹みたいなもんだよ~。」
「まあ。そんな大事な方に紹介して頂けて嬉しいですわ。ハルカさん。これからもよろしくお願い致します。」
「こちらこそ。よろしくお願いします。リビーさん。」
で、いいよね?そう呼んでいいって言われたし。
私が呼ぶと、リビーさんはにっこり笑ってくれた。よかった。
「で、そろそろ厨房も空いたからさ~。お菓子作ろうと思って迎えにきたんだよ~。丁度リビーも来てたから、紹介も兼ねてね~。」
あ。もう作れるんですね。
でも、メルバさんの態度から察するに、ここまで皆さんで来て下さったのはリビーさんの紹介のほうが目的だったんだろうな。
(今の所、私の紹介って気軽に出来るものじゃないもんね。さっきも関係者以外いなかったし。)
地下での挨拶を思い出して、恐らくそうだろうと推測する。
ルシェリードさんに後見してもらうことは決まったけど、急なことだし、1日や2日で準備が整うとは思えない。
今の状態じゃあ、下手に外に出ても困ったことになるのは目に見えてる。
大人しくしとかなきゃ。
食事だってアニスさん達がわざわざ運んできてくれてるんだし。
だから、お菓子を作ることを引き受けたんだよね。
こんなにいろいろしてくれるここのひと達のために、何か出来ればいいなって思って。
上手く出来たらいいな。クルビスさんにも食べてもらいたいし。