別話 新しいスイーツ(キィランリース視点)
「何ですの?何か楽しいことなのですか?」
リッカが興味深々といった顔で聞いてくるが、腹が痛くて答えられん。
それを見かねたのか、リードが「クルビスが魚を選んだのがツボだったようです。」と当たり障りのない説明をした。
まあ、今の状況じゃあ、それが妥当だな。
リッカなら聞いても外には漏らさねえだろうが、ここは1階の受付兼食堂だ。
誰が聞いてるかわからねえからな。
リードの答えに頷いて、何とかこみ上げる笑いを押さえつける。
あ~。笑い死ぬかと思った。
どんな顔して運んだんだろうな。見てみてえ。
「クルビス隊長が…確かにお珍しいですわね。」
納得したように頷きながら、「でも、それだけじゃありませんわよね?」と目で俺に聞いてくる。
叶わねえな。後で教えるって意味で片目をつむると、それで今度こそ納得したようだった。
「さて、それじゃあ行こうか。」
長様の一言でテーブルに戻る。
ルシンはというと、料理をがん見しながら待っていた。
「待たせて悪いな。先に食ってていいって言っときゃよかったな。」
俺が声をかけるとルシンはぶんぶんと首を横に振る。
言っても待つつもりだったみてえだな。
だが、視線はちらちらと肉団子に戻っちまう。ぷぷっ。限界だな。
「ふふっ。じゃあ、いただこうか。」
長様の言葉を合図にルシンが礼もそこそこに料理に手を伸ばす。
すげえ勢いだな。
ちゃんと行儀よく肉団子を1つずつ口に入れて食ってんだが、速さが半端ねえ。
俺もあんなだったかな。メシが楽しみだったのは憶えてるけどよ。
ルシンの見事な食べっぷりを見てると、長様が「そういえば~。」と声を抑えて話し始めた。
内緒話っすか?
「この後、新しいスイーツ作るんだけど、キィ君もリルも食べてかない~?」
なに?スイーツ?
しかも新しい…。
「「食べます。(わ)」」
俺とリッカの抑えた声が重なる。
それを聞いて、長様はうんうんと満足げに頷いてるし、リードは苦笑して、ルシンは食うのを忘れてポカンとした顔で俺たちを見ていた。
だってよ。長様がわざわざお誘い下さるんなら、美味いもんだろ?
俺らの種族の性みてえなもんだが、そこに美味いもんがあるなら、這ってでも行くっつうの。
しかもスイーツだぜ?
是非ともだよな。
この街のスイーツは数が少ねえし、味も単純なものばかり。
もうちっと種類があってもいいと思うんだよな。
かといって、俺の故郷のスイーツじゃあ、ここの気候にあんまし合わねえしなあ。
ふわふわの生地にたっぷりのクリームも良いもんなんだがな。