別話 合縁奇縁(キィランリース視点)
「うん。終わり~。良く頑張ったね~。」
長様の声でちっこいのの訓練が終わった。
声を聞いた途端、ちっこいのはその場にへたり込んじまう。
「お~。良く頑張ったな。メシにすっか。」
俺が声をかけるとちっこいのが目を輝かせて見上げてくる。
その顔が子供らしくて思わず笑っちまう。
笑いながら手を差し出すと、ちっこいのは俺の手を取ってひょいと立ち上がった。
さすがにドラゴンの子供は丈夫だな。
他の種族の子供なら、ここまで訓練した後はしばらく動けんだろう。
「ふふ。では、上に食べに行きましょうか。」
「はいっ。あ。そうだ。」
リードの提案に良い返事をしたかと思うと、ちっこいのが俺の手を離して少し距離を取る。
んん?なんだあ?
「キィ隊長ですよね?ぼく…。」
「お~と。そいつは俺からだ。今のお前さんじゃキツイだろ?」
俺がそう言うと、ちっこいのは頷いておとなしく待つ。
素直だな。俺の子もこんな風に育ってくれりゃあいいが。
「スタグノ族のキィランリースだ。北の術士部隊の隊長やってる。よろしくな?」
「僕は、ドラゴンの一族のルシンです。キィ隊長には以前助けていただきました。あの時はありがとうございました。よろしくお願いします。」
ちっこいの、もとい、ルシンが名乗ってくれる。
驚いたな。あだ名じゃないのか。
ドラゴンの一族は滅多に自分の名を名乗らないと聞くが…。
しまった。こんなちゃんとした名乗りなら、メシの後の方が良かったな。
だがやっちまったし、こうなると俺から先に名乗ったのは正解だったか。
こんなちっこい身体の子供に訓練後で先に名乗らせたら、最悪気を失うところだ。
そんなことになったら、リッカに怒られちまう。
名乗りは魔素を使う。
それも一族名や名前など、その個体を表す情報を盛り込めば盛り込むほどだ。
しかも、無意識に発言した情報を盗まれないようにするから、先に名乗った方が魔素で場を覆ってしまい、魔素の消費が激しくなる。
名を大事にするドラゴンの一族なら尚更だ。
無理させずに済んで良かった。
自分のとっさの判断を褒めつつ、言われた内容を考えてみる。
あの時はありがとうございました?ってことはだいぶ前か?
助けた?俺が?
銀の子供なんて目立つもん、助けたら憶えてそうなもんだが…忘れたな。
「俺が?悪ぃな。あんま憶えてねえわ。」
「あ。僕もなんです。生まれた時の話だったらしいので。」
うん?このちっこいのが生まれた時…。
ってことは50年くらい前じゃねえか?
「ルシン。今いくつだ?」
「54です。」
ってことは50年前のあの事件の頃…。
結構前だな。そりゃ憶えてねえわ。
「えっと。キィ隊長の奥さまのお店に母が行ってて、そこで産気づいちゃったらしくて…。」
ルシンが一生懸命話してくれる。
リッカの店で産気づいた?
ああ。そういや、リッカの店に寄ったら急に産気づいたお客がいたな。
そんで、急いで守備隊の医務局に運び込んだんだ。大騒ぎだったな。
「あの時のトカゲの奥さんかっ。」
「そうですっ。」
「はあ~。思い出した思い出した。
じゃあ、あの時生まれたのが…。」
「僕ですっ。」
飛び跳ねる勢いでルシンが頷く。
そんなに喜ばれると何だか面映ゆいもんだ。やっとこさ思い出したってのに。
リードを見ると、笑って頷いている。
リードはすでに聞いてたんだな。あの時卵を取り上げたのはこいつだもんな。
「驚いたでしょう?私も聞いたときは驚きました。」
「ああ。すっかり忘れてた。あれから54年もたったのか~。早ええなあ。
大きくなったもんだ。元気そうで良かったぜ。」
確か、生まれるのが予定よりだいぶ早くて、母子共に危なかったはずだ。
無事に生まれたってのは後で聞いたが、ちゃんと大きくなったんだな。
「不思議な縁だよね~。僕も聞いた時は驚いたよ~。」
長様が苦笑しながら話に入ってくる。
そういや、卵を取り出した後、母子ともに当時中央にいた長様のもとに預けられたんだったか。
じゃあ、上に来てるリッカを入れれば、当時の関係者が全員いるんだな。
確かに不思議だ。
「ええ。そうですね。っと、こんなとこで立ち話もなんですし、昼を食べに行きましょうか。
ルシン。俺の伴侶も今来てるはずなんだ。顔を見せてやってくれるか?」
「はいっ。」
「では、行きましょうか。」
リードの一言で皆で上の食堂に向かい始める。
腹も減ったし、美味いメシにありつくか。
ここの食堂のメシは美味いんだよな。