別話 術士部隊隊長と治療部隊隊長の会話(キィランリース視点)
「うん。ルシンも、今の終わったらご飯にしようか~。」
長様が言うと、ちっこいのが嬉しそうな顔をした。
育ち盛りだもんな。メシは楽しみだろう。
「ほらほら。呼吸。ゆっくり吸って吐くんだよ~。」
長様がちっこいのに注意する。
メシと聞いた途端に呼吸が乱れた。この年頃じゃあ仕様がねえか。
だが、良くやってる。
「深呼吸」が出来るようになって、今は魔素の移動、増幅、拡散といった基礎訓練を行っている。
新しい呼吸というのは中々身につかないもんだが、今のところ上手く言っているようだ。
『鼻から吸って口から吐く』っていうのがわかり易かったんだろうな。
初等科くらいのちびどもに教えるには、これくらいの方がわかり易くていいってことだな。
後で、リードとクルビスとで意見書を作って、本部に提出してみよう。
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一定の呼吸の習得は、魔素の操作の基本中の基本だ。
だが、種族が違えば息を吸う量から呼吸器官そのものも違うため、先達の指導にも限界がある。
そのため、魔素を操る基礎操作が出来るようになれば、後は個体別に努力するしかなかった。
呼吸法を習得するのが術士の最低条件だが、個体別では修練の度合いに差があり過ぎて、一定レベル技術者や術士の数が中々そろわなかった。
「深呼吸」が呼吸方法の1つとして確立すれば、呼吸法の習得への時間が短縮され、レベルの高い、つまり等級の高い技術者・術士が増えるかもしれない。
まあ、まだ想像と期待の段階だけどな。
だが、やってみなけりゃわかんねえ。
50年前のあの事件で多くの術士が死んだ。
今もって数は十分とはいえねえ。
一昨日の異常気候でそれが浮き彫りになっちまった。
中央に駆け付けられたのは、俺たち北の術士部隊のみ。
1番術士の数があったっていうのもあるが、他の守備隊では等級の低い術士が多く、回復に時間がかかり過ぎたっていうのが本当のところだ。
そのため、中央の長達の会議でも、腕のいい術士の確保が議題に上った。
そこでルシェリードさまが呼吸法の確立を提案されたが、個別に努力するものといった認識が強いためか、それ以上は話が進まなかった。
ルシェリードさまも現状の打破には根本的な見直しが必要だと感じておられるようだ。
あの方は常に先の先まで考えていらっしゃる。
俺や他の連中が思った時には、すでに行動に移されていたことがこれまでにも何度かあった。
今回もそうだが、他の連中にはイマイチわからんらしい。
例外は深緑の森の一族の長様とヘビの一族の族長殿くらいだな。
このお二方とルシェリード様を味方にすれば、「深呼吸」の提案も上手くいくかもしれん。
その前に各術士部隊への根回しがいるな。
クルビスにも手伝ってもらうか。
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「どうしたんです?キィ?」
「ああ。深呼吸の意見書を、な。」
「ふふ。もうまとめてるんですか。」
「おめぇもやってんだろ?」
リードが聞いてきたので、思考を中断し考えてることを伝える。
意見書のことを言ったら可笑しそうに笑ったとこをみると、こいつも、それに恐らくクルビスも同じことを考えてるんだろう。
「ええ。まあ。私は初等教育の改善という形ですが。」
「その方が通りやすいかもな。実際、上手くいった例が目の前にいるしよ。」
「そうですね。これほど効果が目に見えるとは思いませんでした。
ドラゴンの一族はブレスがある分、他の一族より呼吸の習得が遅れ気味だと聞いていましたが、これで改善するかもしれません。」
ドラゴンの子は大半が集落で育てられるから、その辺の情報が少ないんだよな。
まあ、それもこれも魔素が大きすぎるせいなんだが。
今回ちっこいのに効果があるってわかったのは運がいいぜ。