45.深呼吸
「深呼吸とは何ですか?」
フェラリーデさんが聞いてくる。
何だろう。麗しさが増しているように感じるのは気のせいかな…。
「えっと。通常の呼吸より深くゆっくり息を吸って吐くんです。
鼻からゆっくりと息を吸って、口から吐きます。急いではだめです。」
これで説明になってるかなあ。
あらためて説明するのって難しい。
最初は何て習ったっけ?
あー兄ちゃんはなんて言ってた?
「吸うのが鼻で吐くのが口かあ…。そういう方法は初めて聞いたなあ。」
今度はキィさん。
顎に手を当てて考え込んでいる。
「だが、呼吸方法が固定出来れば、確かに一定のものにはなるだろう。」
クルビスさんまで考え込んでる。
深呼吸ですよ?
「そういや深呼吸って名称自体はこっちで使ってなかったね~。」
メルバさんがポツリと言う。
深呼吸はあるけど、名称がないってことですか?
「じゃあ、深呼吸自体はあるんですね?」
「うん。僕なんかは教えるときに「ゆっくり吸って吐く」って具体的な指示しかしてないしね~。名称を教える必要もなかったし?」
ああ。まあ、そうですね。
呼吸がマスター出来ればいいんですもんね。
「そもそも、この名称を教えてくれたのってあーちゃんだし~?
前の世界でも一般的じゃあなかったから、一族でも知らない子の方が多いんじゃないかな~。」
「兄がですか。」
「うん。小さい子にずいぶん一生懸命教えてたよ~。」
…ここでもか。
あー兄ちゃん。何でも教えてるなあ。
小さい子に深呼吸…。
自分の小さい時を思い出す。
「私みたいな子がいたんでしょうか…。」
「ハルカちゃんみたいな?」
ポツリとつぶやいた言葉にメルバさんが食いついた。
あー兄ちゃん絡みだと反応が顕著だよね。食いつき方が違う気がする。
「小さいころ、感情で頭がいっぱいになるとよく泣きだしてたんです。
しかも、そのまま走り出したりしてケガをして…。それで、見かねた兄がいろいろ調べて教えてくれました。
丹田を意識して深呼吸すれば気分が落ち着くからと。」
「そっか~。それで、子供たちに…。」
メルバさんが微笑んでつぶやく。
たぶん、その当時を思い出してるんだと思う。
はるか昔のことなのに、まだ思い出せるんだ。
あー兄ちゃん、メルバさんと仲良かったんだなあ。