44.黒は目立つ
心配になってメルバさんに聞いてみると、メルバさんは不思議そうな顔をしている。
…変なこと聞きました?でも、変に目立っても嫌なんですけど。
「普通~?まあ、普通の順番じゃあないね~。」
やっぱり。どうしよ。変に目立たないかな。
今だって、エルフの長に教えてもらってるし。すごく特殊な状況だよね。
「その、変に目立ったりしないでしょうか。」
不安に自然と声が小さくなる。
異世界でも普通に生活したいんですけど。
「黒の魔素持ちで目立たないのは無理だよ~?大丈夫。黒の魔素持ちの能力が高いのは常識だし、異端視されたりはしないから~。」
「そうなんですか。」
よかった。
「異端視されない」の一言にホッとする。
とにかく、異世界での異端視ほど危ない物は無い。
幸い頼りになる味方も出来て、生活のための手助けもしていただいてるけど、他もそうとは限らない。
出来る限り、無難に目立たずに過ごしたいんだよね。
…好きなひとがクルビスさんって時点で無理があるけど。
「ん~。まだあるね~。うん。いいよ。手の平の「それ」、戻してみようか~。」
それ?って、ああ、魔素ですか。
そういえば、まだ手の平に乗ったままだ。
さっきみたいに、他の事に気を取られてたら消えてそうな気がするけど、そうでもないみたい。
動かしにくい分、安定するのかな。
「はい。」
返事をして、深呼吸。
ゆっくりと、今度はさっきとは逆に移動させていく。
手首。ひじ。腕。肩。そして胸へ。
うん。ゆっくりだけどちゃんと動く。
胸から胃のあたり、そして丹田に収めて終了。
ふう。これで普通に息が出来る。
「お見事~。基本の操作はもう出来てるね~。」
メルバさんが拍手しながら褒めてくれる。
えへ。そうですか?
褒められると嬉しいなあ。
こんなに褒められるのって子供の時以来かも。
「素晴らしい操作でした。魔素も安定してましたし、呼吸もお見事です。」
今度はフェラリーデさん。
いえいえ。そんな。
「ああ。初めてなのにあれ程上手く操作出来るとは思わなかった。呼吸がしっかりしてるからだな。」
そしてクルビスさんまで。
呼吸がしっかりしてる…深呼吸のことかな。
「ホントにすごいお嬢さんだな。呼吸を一定にするのは中々難しいんだぜ?
それを習得するのに、長い奴だと100年かかっちまう場合だってあるしな。」
ひ、100年ですか…。
気が遠くなりそうですね。
(この感覚に慣れなきゃいけないんだろうけど…。想像もつかないなあ。)
異世界ならではの感覚に唖然とする。
でも、深呼吸だよ?そこまでかかるかなあ。
「深呼吸でですか…。」
「「「深呼吸?」」」
私のつぶやきにクルビスさん、フェラリーデさん、キィさんの声が重なった。
え。何か変なこと言いました?