33.扇風機
「あ、あの。今、扇風機って。」
「ああ。そうだよ。これもあーちゃんが元ネタ。」
確認すると、やっぱりというか予想通りな答えが返ってきた。
ザ・異世界知識垂れ流し。
「やっぱり…。」
「元いたところでは使うことなかったんだけどね~。こっちに来てから暑くって。
で、あーちゃんの故郷の話に『ニホンの夏』ってのがあってね~。」
その時のメモを見て作ったんだ~。とメルバさんが笑って言う。
いえいえ。話に聞いただけで作れる方がすごいですよ。
メルバさんって発明家タイプなのかな。
頭がいいんだろうなっていうのは会話の端々で感じてたけど…。
自分で設計して組み立てられるっていうのはまた別の才能だよね?
すごいなぁ。尊敬しちゃう。
それに、あー兄ちゃんもよくぞいろいろ垂れ流してくれた。
兄ちゃんのおかげで妹は異世界でも快適に暮らせそうです。
「すごいですね。話に聞いただけで作れちゃったんですか?」
兄に心の中で感謝しつつ、思ったことを口にする。
私は出来ないからなおさらすごいと思うしね。
「ん~。あーちゃんが構造から原理まで詳しく教えてくれたからね~。何でも小さいころに分解して遊んでいたらしいよ?」
あ~。あったあった。
昔、叔母さん家に遊びに行ったら、珍しく外に出ないで部屋の中で何かやってたんだよね。
覗き込んだら、扇風機がバラバラになってて、部品が綺麗に並べられてた。
そこにおばさんが帰ってきて、「またあんたは家の物をバラバラにしてっ。」って怒られてた。
「ええ。兄は気になるとその物の仕組みから原理から自分で確かめないと気が済まないたちでしたから。」
昔を思い出しつつ苦笑して答える。
メルバさんも思い当たることがあるらしく、頷いて笑ってる。
「ふふっ。…あれ、こんな時間に誰だろ?」
カッカッ
昼間より控えめにノッカーが鳴る。
誰だろう?
「リードです。入ってもよろしいでしょうか?」
「いいよ~。」
フェラリーデさんだった。
手にはお盆とカップが乗っている。
「ルシンはもう寝ましたか。…リコのお茶です。気持ちが落ち着いて眠りやすくなりますので。」
寝れないかもって思ってたんでありがたいです。
この香り、昨日飲んだお茶ですね?
食後に出してもらったほうじ茶のカップと引き換えにリコのお茶のカップを受け取る。
話しながらほうじ茶を飲んでいたら、気が付いたら飲み干してたんだよね。
せっかく入れてもらったんだから、もうちょっと味わえばよかったかなぁ。
そんな風に反省しつつ、新しいお茶に口を付ける。
今日は濃い紫色だったけど、昨日で味はわかってるので口に運ぶのに躊躇はない。
ミルクが入ってないのかな?
「ああ。僕がいるからメルは抜いてくれたんだね。ハルカちゃんミルクいる?」
メルバさんがいるからか。
口を付けていたのでそのままお茶を飲むと、ラベンダーの良い香りが口の中に広がった。
昨日と違って鼻が詰まってないから、香りが口の中一杯に広がってる。
ちょっと苦味のようなクセがあるけど、ハーブティーを良く飲んでたからこれくらいは許容範囲だ。
「大丈夫です。美味しいです。」
「そう?あ、蜜は?」
甘さ?そういえば、ほとんどストレートだ。
このままでも十分美味しいけど。今回はいいかな。
「このままで大丈夫です。飲みやすいですし。」
私の答えに頷いて、メルバさんもお茶を飲む。
それを見て、フェラリーデさんが「では、私はこれで。」と部屋を出ようとした。
あ、朝のこと謝らなきゃ。
私が不用意にゴムを触りまくったから倒れて、今日の授業中止になっちゃったし。
「フェラリ…リードさん。あの。朝はすみませんでした。」
「お詫びするのはこちらの方です。ハルカさんはこちらの世界に慣れていらっしゃいませんから、何はするときは十分に注意する必要がありましたのに。」
私の謝罪にフェラリーデさんが首を振る。
メルバさんも「そうだね~。」って頷いてるけど…。
「えっと。でも、私も不用意でした。自分がどういう状態かわからないのに、正体のわかっていない物を触ったんですから。ですから、私も謝罪します。」
私がそう言うと、メルバさんが「それもそうだね~。」と頷いていた。
「ディー君も気を付けるし、ハルカちゃんもこれから気を付けるよね~?じゃあ、今度からお互い気を付けるってことで、この話はここまで~。ね?」
私たちが頷いたのを確認して、メルバさんが話をまとめる。
確かにここでお互い謝っていても仕方ない。次から気を付けていく方が大事だ。
「そうですね。私も次から気を付けます。」
「はい。私も気を付けます。よろしくお願いしますフェ…リードさん。」
「ふふ。フェラリーデでいいですよ。呼びやすい方でお呼び下さい。」
フェラリーデさんが柔らかな笑みで言ってくれる。ぐっ。
美形の優しい笑みは身体に毒です。