30.習慣ってこわい
「ここのご飯はいつも美味しいね~。里は素材そのままが多いから、たまに飽きちゃうんだよね~。」
メルバさんがお茶を入れながらしみじみと話す。
いつの間にお茶が。ご飯に夢中で気付かなかった。
「はい。お茶。」
「すみません。」
「ふふっ。こっちでそれを言うと誤解されるよ~?」
えっ。何か変なこと言いましたっけ。
お茶をもらってすみませんって…。あ。
「ありがとうございます?」
少ししどろもどろに言うと、メルバさんが頷いた。
ああ、そっか。日本人特有の習慣。
「お礼は『ありがとうございます』、謝罪は『すみません』だよ~。
気を付けてね~。あまり謝罪をすると隙になるから、良くないやつに狙われるかもしれないよ~。」
お礼にはお礼の言葉で。
あー兄ちゃんが口を酸っぱくしていってたなぁ。「あたりまえに慣れるな。」って。
大学行ってた時だったから「何かあったのかなぁ。」と思ってたけど、もしかしてこれが理由かな。
メルバさんの話だと大学生の時にトリップしてたみたいだし。
「兄も狙われたりしたんでしょうか?」
「まあ、チンピラにちょっかいかけられたりしてたね~。気を付けててもついやっちゃうみたいだったし?」
やっぱりそうか。うん。気を付けよう。
歯を見せないとかもあるし、仕草には気を配るようにしなきゃ。
「気を付けます。ありがとうございます。」
胸に手を当ててお礼をする。
こういうことを言ってもらえる機会は貴重だ。大事にしなきゃ。
「お姉さんの習慣ですか?」
ルシン君が不思議そうに、面白そうに聞いてくる。
ああ。知らないひとから見たら不思議だよね。
「うん。相手に『手間をかけさせてすみません。ありがとうございます。』ってことなんだけど、私のいた所の独特の習慣だから、驚いたでしょ?」
適当に意味を説明しつつ、ルシン君を見ると目を真ん丸にしていた。
驚いたんだろうなぁ。カルチャーショックってやつだよね。