別話 長への報告 (フェラリーデ視点)
「…長自ら申し訳ありません。少々、急ぎ確認したいことがありまして…。」
「構わないよ~。今見てる子たちはよく寝てるしね~。」
長を礼の姿勢で出迎えます。
チラリと見えましたが、室内は窓も閉めており仕切り布も出されていました。
仕切り布の前にクルビスの黒い立ち姿も見えましたから、おそらくハルカさんの姿を隠すためでしょう。
ハルカさんの姿が見えないことにホッとしながら、長とビルム殿にイスを勧めます。
「それで~?確認って何~?」
「…西から幾つかの同族が姿を消しました。里に戻っていないでしょうか?」
「っ。」
ビルム殿の思いがけない話に息を飲みます。
本当なら有り得ないことです。
どの一族も一族同士の連携は深いもので、近くに住む同族のことならある程度は知っています。
これは家族の絆とは別のもので、成長の過程や能力の開花など同族同士で教えなくてはわからないことがあるからです。
その中でも我が一族は数も少ないことと知識の保護、それと一族特有の能力である薬草の採取・調合の教育を施すために、幼いころから多くが里で暮らします。
そのため他の一族よりも同族同士の絆が深く、里から他の場所に移っても同族同士の集まりが頻繁にあるのです。
また一族特有の習慣として、他の場所に移るにしてもその地区の1番年長の同族に申し出るか、近くの同族に知らせることになっています。
これも知識の保護のためなのですが、そこから考えても今のビルム殿の話は非常に不自然です。
「…昨日の昼の時点では増えたりはしてなかったね~。ここ最近の里帰りは報告されてないよ~。」
「そうですか…。姿が見えなくなったのは、西の南に住んでいた3つです。名はケルンとフィーラ、それにグース。3つとも年は同じで150程です。治療所に務めていたのですが、昨日から姿が見えないと今朝通報がありました。」
昨日から…。可能性は低いでしょうが、騒ぎに乗じて攫われたのでしょうか?
長も険しい表情でビルム殿の報告を聞いています。
我が一族の知識は多岐にわたり、その中でも薬の調合は数万種です。
我々にしか調合出来ないものもあり、誘拐しようと企むバカも後を絶ちません。
その危険を減らすため、ある程度力が強く能力の高い者が街に出てきています。
しかも今回姿が見えないのは若く体力もある100歳代。無理やり攫われた可能性は低いでしょう。
もし、無理やりなら…。困ったことになりそうです。
「う~ん。また西かぁ~。おかしなことが続くねぇ~。」
「また…とは?」
「昨日ね~。保護したドラゴンの一族の子がいるんだけどさ~。西に住んでる子でね~。
いきなり本体に戻ろうとして森に逃げ込んだんだって~。」
「っ。そのようなことが…。」
ワースの話にビルム殿が顔色を変えます。
ルシェリード様が中央に報告なさってるでしょうが、クルビスでさえ先程帰ってきたばかりです。まだ各地区に伝わってはいないでしょう。
管轄外ですが、しばらく西地区からは目を離せませんね。
シードが実家に戻って詳しい状況を聞いて来てくれると言ってました。西に最も多いヘビの一族の話も聞かなくてはいけないでしょう。