別話 クルビスの到着 (フェラリーデ視点)
「大事はありません。ですが、私のミスです。すみませんでした。」
「…。何があったんだ?」
私の謝罪にクルビスが冷静な声で聞き返してきます。
先程の動揺と違って、今は魔素も落ち着いています。話を聞いてくれるようです。
「ハルカさんがゴムを探していらして、ゴムを渡したんです。」
「ゴム?何故そんな物を…。」
「髪留めに使うそうですよ。布でくるんだ物なら髪を止められると教えて下さいました。」
「成る程。…それで?」
「ハルカさんはまだ魔素の調整を習っていない状態でした。その状態でゴムを触ったせいで魔素が一気にゴムに流れ込み、体内の魔素の急激な低下で気を失われたんです。」
私の説明にクルビスが首を軽く傾げながら聞いてきます。
「…それは、小さい子供がよくなるやつじゃなかったか?」
「ええ。そうです。ハルカさんは魔素を扱う術をお持ちではありませんから、必要な分だけ流し込むことが出来ないようです。うっかりしてました。」
「そうか。だが、リードのせいではないだろう。俺たちが当たり前だと思ってることがハルカには通じないということだ。」
「そうですね。これから1つ1つ確認していかなければ…。今は長がついておられて、眠っていらっしゃるようです。
後、もう一つ…今、西地区のビルム殿が来ているのです。彼は我が一族の中でもヒト族が嫌いで有名でして。西の状況を長に報告にこられたのですが…。」
「俺が先に顔を見せて長に話しておけばいいんだな?」
私が言わんとしていたことをクルビスが代わりに言ってくれます。
さすが、わかってますね。
とにかくビルム殿がハルカさんと顔を合わせないようにしておきたいのです。
彼はヒト族に誘拐されてから、極端なヒト嫌いになったと聞いています。
ハルカさんにいきなり何かするとは思えませんが、不安の種は摘み取っておくに限ります。
とにかく長にビルム殿が来ていることを知らせなくては。
「ええ。医務室の奥の部屋にいらっしゃいます。ビルム殿の方は隣の部屋ですし、まだお話も途中ですからしばらくは大丈夫です。
こちらで引き留めておきますので、長にここの隣の部屋に来ていただけるように話してもらえませんか?」
「わかった。」
私の願いにクルビスは軽く頷いて医務室の方へと向かいます。
若干急ぎ足なのは、ハルカさんを心配してのことでしょう。
「お願いしますよ。クルビス。」
ポツリとつぶやき、私はビルム殿の待つ部屋の方へと足を向けました。
さて、どうやって持たせましょうか。