20.ヒト嫌いのエルフ
「私って…治療しにくいんですか?」
聞くのが怖いけど、聞いておかないといけないことだ。
寿命も変わったんなら、体質も変わったかもしれない。
「うん?ま~そうだね~。こっちでヒト族を治療したことがあるのって僕くらいだし。」
あ、種族が理由ですか。
そりゃあ、こっちにはヒト族がいないんだもんね。身体の作りだってわからないですよね。
「…待ってください。窓を閉めてきます。」
メルバさんが続きを話そうとするのを遮って、クルビスさんが窓を閉めに行く。
窓といっても、車のバックドアみたいな跳ね上げ式ですけどね。
ここでは外に面する出入り口は、全部外に向かって跳ね上げるみたい。
大きさは…A4の紙くらいかなぁ?小さいんだよね。
その小さい窓が3~4つ並んでる壁の右端、ルシン君のベッドの向こう側にクルビスさんが入っていく。
クルビスさんが壁を触ったと思ったら窓が一斉に閉まった。きしんだ音が耳に痛い。
室内が少し薄暗くなって、すぐに明るくなる。
自動照明なのかな?
「厳重だね~。一応聞かれないようにはしてるよ~?」
「…はい。わかっていましたが念のためです。今、西地区のビルム隊士がいらしてます。」
「えっ。彼来てるの?」
「はい。長にも後程ご挨拶がしたいと言ってました。」
「ああ~。成る程ね~。あ、ハルカちゃん。今言ったビルム君ってね、うちの一族でヒト族が大嫌いな子なんだ~。だから、一応気を付けてね?
まあ、会うことはまずないだろうけどね~。」
えっ。ヒト嫌いのエルフですか。
何てお約束な…。どうか会いませんように。
「はい…。気を付けます。」
「うんうん。たぶんこっちには来ないだろうから…。」
カッカッ
「…誰~?」
「ビルムです。ご挨拶と報告にまいりました。」
向こうから来た。
どうしよう…。
「あ~、僕がそっちにいくよ~。今具合悪くて寝てる子がいるから。」
そう言って立ち上がると。メルバさんはドアに向かった。
途中、クルビスさんに何か言ってたけど内容は聞こえなかった。耳の作りが違うんだなぁ。
クルビスさんは頷いて、私のベッドわきのカーテンを引いた。
これで向こうからは私の姿は見えない。ちょっと安心。
「…長自ら申し訳ありません。少々、急ぎ確認したいことがありまして…。」
「構わないよ~。今見てる子たちはよく寝てるしね~。」
そんな会話と共にドアが閉まる音がする。
よかった…私のことには気付かれなかったみたい。
「…もう大丈夫だ。ここでの会話は外には漏れていないから安心するといい。」
カーテンを開けて、クルビスさんが安全を保証してくれる。その言葉にホッとしてベッドに沈み込む。
大きな声で話してたわけじゃないけど、誰にでも聞かれていい話じゃなかったもんね。
「窓を閉めておいて正解だった。具合が悪いものが寝ているというのに信憑性が増す。」
あ、そうなんですか。
それも常識ですか?
まだまだ知らない常識が出てくるんだろうなぁ。
これから覚えることの多さにこっそりため息をついた。