118.慌ただしい帰還
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「リリィ。長はどちらだ?」
メラさんは守備隊に着くなり、カウンターにいたリリィさんに声をかける。
は、早い…。もうちょっと、もうちょっとだけゆっくり移動してもらいたい…。
「メラ…さん。足、速いですね…。」
「現役の隊長だからなあ。大丈夫か?」
「お水もってきましょうか?」
息が上がりながらつぶやくと、シードさんとアニスさんが心配そうに声をかけてくれる。
ふたりとも息ひとつ乱れてない。さすが現役の隊士さん。体力が違うなあ。
メラさんに声をかけられたリリィさんは慌てていた。
そりゃそうだよね。こんな有り得ない組み合わせで帰ってきたら、誰だって驚く。
現に、今フロアにいる隊士さんたちの視線はこっちにくぎ付けだ。
それに気づいて、さりげなくシードさんとアニスさんが盾になってくれる。ありがとうございます。
結局、兄の話はまだ聞けてない。
詳しくはここでは話せないとメラさんに言われて、急いで守備隊に戻ることになったからだ。
一族のことだから、長であるメルバさん抜きに勝手は出来ないんだって。
約束の時間について話すと、それならと、お茶を飲んだ後はメラさんがお茶を買ってたりして時間をつぶすことにした。
その間は兄の話は一切出ず、代わりにクルビスさんの子供の頃の話を聞かせてもらった。
窓から飛び降りようとして失敗した話や、お勉強さぼって川に落ちた話なんてのもあって驚いたけど。
クルビスさん、結構やんちゃだったんだなあ。
私がこんな話を聞いてたって知ったらどんな顔するかな?…嫌がりそう。
でも、子供の頃のクルビスさんの話は聞いてて楽しかった。
またメラさんに聞いてみようかな。
「ハルカっ。」
あ。クルビスさん。
クルビスさんのこと考えてたら、本人が来た。
「ただいま戻りました。外はすごい数でしたよ。」
「…ああ。今日は噴水の日だったからな。後で気付いて失敗したと思った。」
私の様子を確認するように見ていくクルビスさん。
ケガなんてしてませんよ?
「…何事もなかったようだな。」
「それがそうでもないんだよなあ。」
ホッとしたようにつぶやくクルビスさんに、シードさんが面白そうに言う。
シードさんの視線の先にメラさんがいるとわかると、クルビスさんの顔が引きつった。
トカゲの顔で引きつると、牙がちらちら見えて大変怖いです。
目の下の辺りがぴくぴく痙攣してるし。
「偶然、リビさんの茶店でお会いしたんです。せっかくなので、一緒にお茶をいただきました。」
クルビスさんに報告すると、今度は顔をしかめられた。なんで?
そこにリリィさんと話し終えたメラさんが来る。
「母を見て顔をしかめるとは何事だ。上に行くぞ。長にお話がある。」
メラさんはクルビスさんの対応に文句を言うと、きびすを返して階段に向かった。
さて、やっとあー兄ちゃんの話が聞けるかな?