12.冒険者な兄の話
「兄はずいぶん日本の話をしてたんですね。」
「ははっ。…っくっく。ごめんね。思い出しちゃって。っく。」
筆記用具を見ながらしみじみとして言うと、メルバさんが可笑しそうに吹き出す。
顔を軽く上に向けてるのが違和感あるけど、確か、こっちでは歯を見せて笑う時は上向くんだよね?
こっちで1番最初に覚えた習慣だ。
通常は口を閉じて微笑むだけなんだよね。
「…うん。いろいろ話したよ~。僕はエルフのこと、あーちゃんはニホンでの生活のことをねぇ。」
思い出すと吹き出すって、何やったんだろ?
あー兄ちゃんだからなぁ。ドラゴンの上で昼寝してましたって言われても納得すると思う。
「あーちゃんは突拍子もないことをよくやってたよ。ドラゴンと共同生活したりとかね~。
向こうのドラゴンは気が荒いのに、朗らかに世間話してるんだもん。この目で見ても夢じゃないかと思ったよ~。
最初に会ったときは、お互い冒険者だったんだけど…あ、冒険者ってわかる?」
ドラゴンと共同…やってたんだ。この分だと昼寝もしてそう。
それにしても、冒険者!ファンタジーな単語出てきたなぁ。
(エルフもいたわけだし、あー兄ちゃんの行った世界って王道な気がする。)
そんなことを考えつつ、メルバさんの質問に答える。
冒険者なら良く知ってますとも。ただ、冒険者も話によって立場が違ったからなぁ。
「はい。物語に出てくる冒険者なら、ですけど。」
「ああ、たぶん、その冒険者であってるよ。あーちゃんはその本からの知識のおかげで、飢え死にだけはしなかったって言ってたしね~。」
じゃあ、やっぱり王道なパターンだったんだなぁ。
良く無事に帰れたよ。いろいろ危険だったんじゃないかな。
「あの、じゃあ、モンスターとか魔物とかも…。」
「ああ。魔物は出たよ~。それを退治して、ついでに使える部位を取っていくのが冒険者。
まあ、荒くれ者の仕事だね~。それで、ギルドって言う冒険者をまとめる組織があってね?そこの支部長に紹介されて出会ったんだ~。手ごわい魔物をチームを組んで討伐したんだよ~。」
…王道だ。あー兄ちゃんすごいなぁ。
どこでも生きていける人だって思ってたけど、ホントにどこでも生きていけたんだ。
「その依頼が終わって一旦は別れたんだけどね?旅の途中で偶然会って、そのまま一緒に旅をしたんだ。…そうだねぇ。10年くらいかな~?」
え?今おかしい数字が聞こえた気が…。
10年?別にあー兄ちゃん格段に老けたって感じでもなかったけど…。
「ああ、あーちゃんの姿のことかな?ニホンに戻るときに身体も戻ったんだよ~。魔法の副作用みたいなもんでね~。
あーちゃん、『鍛えた筋肉が無くなってしまったっ。』ってすごく悔しがってた。」
ああ、魔法の…。それで変わったところはなかったんだ。
にしても、メルバさん良く覚えてるなぁ。それだけ、あー兄ちゃんがとんでもなかったってことなんだろうけど…。
でも、よかった。あー兄ちゃん異世界で1人じゃなかったんだ。
メルバさんが話してる感じだと、すごく親密な付き合いだったんだと思う。
「ふふ。目に浮かびます。兄は身体を鍛えるのが趣味みたいな人ですから。悔しかったんでしょうね。」
「もう、宥めるのがすっごく大変だったよ~。『帰るのよそうかな』なんてことまで言い出しちゃってさ~。
まあ、その後すぐに僕たちはこっちに来ちゃったから、あの時帰れて良かったんだけど…。」
あ、メルバさんが世界に呼ばれて…ってやつですか。
確か、すっごく前に来たんですよね?
「あれから、2000年も経ったのになぁ。今でも昨日のことみたいに覚えてるよ。」
あ、そう、2000年っ。
実感が無さ過ぎて頭から飛んでた。
(…メルバさん若そうに見えるけど、2000歳過ぎてるんだよね?エルフだからなのかな?)
「ふふ。ハルカちゃんには、2000年なんて遠すぎてわかりにくいかな?」
「…実感がわきません。80歳くらいまでしか生きられませんから。」
「まあ、そうだろうね~。でも、これからはその感覚に慣れていこうね~?」
え?その感覚って。
…2000年っていう感覚?それともこの世界の感覚ってことですか?
「ハルカちゃんね。寿命が延びてるみたいなんだよね。」
ワンモアプリーズ。
今、おかしな話を聞いたような気がします。