115.私を見に来た理由
今日も1800字程。
「メラさまっ。」
「…いきなり過ぎやしませんか?」
メラさんのお願いを聞いて、何故かアニスさんとシードさんが慌てている。
別に構わないんだけどなあ。隠すことなんてないし。
「いいですよ。今、外しますね。」
するすると頭に巻いた布を取る。
中の髪は編みこみでまとめてあるので、ぼさぼさになる心配はいらない。
布を巻きやすいようにと、今朝アニスさんがやってくれた。
そのアニスさんは私を驚いた顔で見つめてるけど。何なんだろう。
「これは…。」
布を取った私を見て、メラさんは言葉を失ったようだった。
よく見えるようにイスに座ったまま背中を見せると、息を飲む音が聞こえる。
「髪をほどいた方がいいですか?」
その方が黒一色ってわかるよね?
振り返りながら聞くと、メラさんはハッとしたように瞬きをして首を横に振った。
「…いや。結構だ。後ろまで向いてくれてありがとう。もう戻ってくれ。」
あれ?こんなもんでいいんだ。
何だか釈然としないまま座りなおすと、メラさんはまだ呆然とした感じだった。
「いたんだな。黒一色が。…息子だけだと思ってた。」
メラさんがつぶやくように言う。
ずいぶん驚いたみたい。ルシェリードさんに聞いてたはずなのに。
見るまで信じられなかったのかな…。
「黒一色はクルビス君だけだった」ってメルバさんが言ってたし。
「すまなかった。突然色を見せてくれなど、失礼なことを言った。」
「いいえっ。そんな大したことじゃありませんからっ。」
メラさんは私にきちんと向き直ると、いきなり謝罪した。
驚いて首を横に振るけど、メラさんは不思議そうな顔をしている。なんで?
「…そうか。ハルカ嬢はこの世界の方ではなかったな。こちらでは、隠している『色』を見せるのはよほど親しい相手だけなんだ。だから、今、私がお願いしたことは非常に礼儀に反するものになる。訴えられても文句は言えない。」
ええっ。そうなんだ。だから、アニスさんとシードさんが慌ててたのか。
私はまったく気にしてないんだけど。
「…そうなんですか。なら、先程の謝罪はお受けします。でも、本当に気にしてないので、メラさんも気にしないで下さい。」
私が謝罪を受けると言うと、メラさんはホッとした顔になった。
アニスさんとシードさんもだ。
(もしかして、「色を見せろ」って言うのはかなりマズイことなのかな?だから、なかなか話を切り出さなかったとか?)
「訴えられても文句は言えない」ってメラさん言ってたしなあ。
これはしっかり覚えておかないと。
「ありがとう。…息子と同じ「黒の単色の女性が来た」と父から聞いていたんだが、どうにも自分の目で確かめておきたくて、失礼を承知で先程のようなお願いをした。今まで、何度も『にせもの』を送り込まれたものでね。」
…『にせもの』?『黒一色のにせもの』ってこと?
そりゃ、髪なら染めたりすれば簡単に出来るよね?皮膚とかは大変そうだけど。
(う~ん。送り込まれたって言ってるから、無理やり押しかけてきたんだろうな。)
何だか、権謀策略な話になってきた。
でも、私は関係ないよね?
「そうなんですか…。」
とりあえず無難に相槌を返しておく。
他に言いようが無いし。
メラさんの忌々しそうな顔から察するに、権力がらみの女性が送り込まれたんだろうな。
恐らく、わざわざ黒一色に見えるように細工して。
だから、私を見に来たんだ。
本当に黒一色なのかって確認しに。
今までいろいろあったなら、ルシェリードさんから聞いてたって気になるだろうし、私の中身も気になっただろう。
黒一色が本当だとして、優遇されると聞いて増長するような女なら、それはそれで問題あるもんね。
クルビスさんのお母様としては、私がどんな女なのかも知っておきたいところだ。
女性にしかわからないこともあるし。
(クルビスさんの立場を知って、利用しようとしないか見ておこうってところかな。)
何せ、ヒト族だもんなあ。私。
顔を合わせないようにって、追い出されるくらいヒトを嫌ってるエルフがいるんだし、エルフにとってヒト族の印象は悪いはずだ。
(メラさんもエルフなんだから、ヒト族を警戒しても仕方ないよね。っていうか、親として当たり前か。)
理解できるので、不快に思うことも無い。
にこりと笑って、気にしてないことをアピールする。
メラさんは驚いてたけど、すぐに微笑み返してくれた。ぐふっ。
ちょ、超絶男前な方の微笑みは胸に突き刺さります…。