111.クルビスさんのお母様
「…どうする?まだ昼の1刻だ。」
声をかけられてそちらを見ると、シードさんは大きな円盤を見ていた。
上半分がミントグリーン、下半分が黒に塗り分けられていて、金色の透かし模様の入った針が1本乗っている。
目盛が多い気がするけど、時計みたいだ。
1日は24時間だって聞いてるから、この時計は1日分を表してるのかな。
ミントグリーンは昼、黒は夜って感じかな?
針はミントグリーンの真ん中より1つ右の目盛にある。あれが1刻の目盛かあ。
「昼の2刻過ぎでしたよね?」
「ああ。まだ1刻はあるぜ。どうする?」
帰る時間を確認すると再度予定を聞かれる。
困ったなあ。欲しい物はだいたい全部買っちゃったしなあ。
お腹も一杯だし、さっきいただいたお茶で喉も乾いてないし。どうしよう。
キイィ
私が頭を悩ませていると、お店のドアが開いた。
ドアの音にそちらを向くと、ひとりのエルフが入って来るところだった。
すごい迫力のあるひとだ。見上げるほどの長身、腰まで伸ばした黒と見紛う紺色の髪、切れ長の一重がクールな印象を与える。もちろん美形だ。
(まるで夜を固めたみたい…。)
言葉もなく見入っていると、紺色のエルフがこちらを見た。
わわ。こっちにくる。
「奇遇だな。久しぶりだ。シード。リリィとは仲良くしているか?」
「お久しぶりです。メラ様。リリィとは絶好調ですよ。」
シードさんの知り合いかあ。
制服着てるから守備隊の方みたい。でも、近くで見たらアーマーに胸のふくらみがある。
(女性…なんだ。でもそうやってみたら身長の割に華奢だよね。)
勝手に納得してると、紺色のエルフがこちらを見た。
目が合っちゃった。瞳も紺色だ。吸い込まれそう。
「こちらのお嬢さんは?」
男っぽい話し方にハスキーな声がまたお似合いです。
かっこいいひとだから、何だかドキドキしてくる。
「お久しぶりですメラ様。こちらは長のお客様です。今日は街を案内していました。」
「ああ。アニスも久しぶりだ。気付くのが遅れてすまない。そうか貴女が…。」
アニスさんっ。ナイスフォローっ。
助かったあ。何て説明すればいいかわからなかったから。
今日のお出かけの理由だって、ヒト嫌いのエルフが来るからだし。
エルフには気をつけなきゃ。このひとはどうなんだろう?
「ハルカさん。こちらは中央本隊の術士部隊隊長メラさまです。クルビス隊長のお母様ですよ。」
…クルビスさんのお母様?
え。このタイミングでお母様とご対面?
(うわあ。どんなフラグ?これ。)
とりあえずご挨拶しないと。
笑顔が引きつってませんように。