109.黒猫の茶店
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「…おし。ここが茶店だ。他にはなさそうだから、ジジ婆の言ってた店はここだろう。」
ジルベールさんの花屋さんを出てから、ものすごい人混みをかき分けて、何とか茶店にたどり着いた。
シードさんが盾になってくれなかったら、たどり着けなかったかも…。
シードさんに感謝しつつ、ジルベールさんに紹介されたお店を見る。
不思議な作りの店だ。他の店みたいにバックドアのような入口を開けているのに、中にはまた木のドアがある。
「いらっしゃいませ。」
店内に入ると、涼しい空気とともに静かな声が迎えてくれた。
しかし、店内に声の主の姿は見えない。どこから声が?
「ビビ茶はあるかい?茎だけのやつがいいんだが。」
「ございます。今朝入ったばかりなのですよ。」
シードさんが声をかけると、店のカウンターの上に1匹の黒い猫が姿を現した。
黒猫さんはトットットッと軽い足取りでカウンタ-を移動する。2本脚で。
良く見ると、服も来ていた。黒のノースリーブに黒のゆったりした長いズボン。靴は履いてない。
全部黒だからわからなかった。あ。尻尾は白だ。まあでも、黒猫さんでいいかな。
黒猫さんは、私から向かって右側の棚に行き、一番奥の壺を取り出してきた。
…どうやって持ってるんだろう?肉球で引っ付けてるとか?いや。謎はそこじゃない。
(声の主はこの黒猫さんだ。うわー。さすが異世界。猫もしゃべるし、2本脚で歩くんだ。)
そういえば、猫そっくりな種族の話があったなあと、記憶をひっぱり出しつつ黒猫さんを見守る。
今日はいろんな種族のひとに会う日のようだ。
「こちらが特級のビビ茶になります。お味見はされますか?」
静かで落ち着いた低めの声だ。
服装からしても男性だと思う。仕草も優雅で素敵だ。
「どうする?さっきジジ婆のところで飲んできたけど。」
「ああっ。ジジ様のご紹介でしたか。でしたら、こちらの方がよろしいでしょうか?」
そう言うと、黒猫さんはカウンタの中から別の壺を取り出してきた。
これもお茶みたいだけど、何か違うの?
「こちらもビビ茶の特級ですが、茎の加工が少し違います。
香りに差はありませんが、こちらの方が口当たりがまろやかだと、ジジ様はこちらを気に入っておられます。」
へえ。口当たりが。
それならまろやかな方がいいかな。さっき飲ませてもらったお茶は美味しかったし。
「なら、そちらをいただけますか?おいくらでしょうか?」
「どちらも、特級はさじ1つにつき2でございます。おいくつご用意いたしましょうか?」
2かあ。中々のお値段。
さじは大さじくらいの大きさで、コの字型の深さのあるものだった。
(大さじ1つで200円…。まあ、ジジさんの淹れ方見てたら、ウーロン茶みたいに少しの葉でいいみたいだし、そこまで高くはないかな。)
お茶は値段が香りに反映される。
実家もお茶の葉は1袋2000円の中々良いお茶を使っていた。
母のこだわりだけど、そのおかげでうちの兄妹は全員がお茶好きだ。
だから、私も気に入ったお茶には妥協はしないことにしている。どんと買いましょう。