11.万年筆?
「ふふっ。街に行きたい?」
あ、やっぱり、顔に出てましたか。
はい。いろんなお店を覗きたいです。
私がこっくりと頷くと、メルバさんはますます笑みを深める。
…何だか気恥ずかしい感じがする。落ち着かないなぁ。
まるで、はしゃぐ子供を微笑ましげに見守る大人の笑みだ。
私、もういい年なんだけど……そうだった。ここの寿命のこと忘れてた。
たしか、成人が100歳なんだっけ。
クルビスさんに聞いた時は腰が抜けるかと思ったけど、それが常識なんだもんね。
ってことは、私の年齢はここでは5歳くらい…。
うん。子供だ。そして、メルバさんはかなり年上だと思う。
クルビスさんたちの態度見てたらわかるもんね。
あ、そういえば、クルビスさんの年齢聞くの忘れてた。…聞かない方がいいかもだけど。
「どうかした~?」
メルバさんが不思議そうにこっちを見ている。
あ~。しまった。また自分の世界に入っちゃってた。
気になることも覚えなきゃいけないことも多すぎて、情報の整理が追い付かないんだよね。
だから、すぐに考え事しちゃう。昨日も聞いた情報を頭に入れるのに必死だったもんなぁ。
私の荷物もフェラリーデさんに預けっぱなしだし、メモも取れない状態だから忘れそうで怖いんだよね。
あ、そうだ。メルバさんにこっちにメモ帳ないか聞いてみよう。
「いえ、街に行くのも楽しみなんですけど、聞いた話のメモを取りたくて。先程のゴムの話もそうなんですけど、どれも知らない事ばかりなものですから、頭の中の整理が追い付かなくて…。」
「ああ~。知らないことばっかりだもんね~。でも、それならディー君が用意してたんじゃないかな~?ホントなら今頃授業受けてたもんね?
…ちょっと、ルシン見ててもらえる?たぶん、まだしばらくは寝てると思うから。」
メルバさんがそう言って立ち上がる。探しに行ってくれるみたいだ。
お手数おかけします。もう頭の中が一杯なんです。これ以上の情報は入りません。
「お願いしてもいいですか?」
「うんうん。まっかせて~。すぐに戻るから。」
メルバさんはそう言って部屋を出て行った。
メルバさんって背が高いんだなぁ。さっきはかなり見上げなきゃいけなかった。
昨日はそんな風に思わなかったけど…ルシェリードさんが一緒だったからかな?
ルシェリードさんってクルビスさんより体格いいんだよね。身体の作りが違うっていうか、さすがドラゴンっていうか。
ルシェリードさんと並んだら、私なんてまるっきり子供に見えるんだろうなぁ。
…クルビスさんとだって、背が頭1つ分は違うのに。ここのひと達って体格いいよね。
ルシェリードさんはさらに体格いいもんね。何だかすごく迫力もあるし。
最初お会いした時は緊張したなぁ。
あれだけ体格のいいひとが傍にいたら、そりゃ小さめに見えるよね。
ドラゴンの一族って、皆あんな感じなのかな?ルシン君は子供だから、基準になんないし。
「ただいま~。何か変わったことなかった~?無いよね~?」
ドアが開いて、メルバさんが入ってくる。
ホントにすぐですね。
「お帰りなさい。」
「はい。ただいま~。んで、これがハルカちゃんの筆記用具。これがノートで、これがペンで…。」
ドアを閉めるなり、メルバさんは急ぎ足で来て、手に持ってた物を次々と私に渡してきた。
えっと、ノートにペン…万年筆?…に定規にインク…。
見たことある筆記用具ばっかり…。
使いやすくていいけど。
「これ、うちの一族が開発した筆記用具なんだよ~。元ネタはあーちゃんだけどね。」
あー兄ちゃんか。それで見知った形の筆記用具なんだ。
じゃあ、ペンは万年筆かな?
「じゃあ、このペンって万年筆ですか?」
「うん。そうだよ~。インクをペンの中に入れるって、すごい発想だよね~。紙と並んでうちの一族の看板商品だよ~。」
あ、やっぱり万年筆なんですね。
じゃあ、このインクは補充用か。
(にしても、パスタといい、万年筆といい、あー兄ちゃん異世界知識吐き出しまくりだなぁ。いいのかなぁ。)
ラノベでは、異世界知識ってあんまり言っちゃマズいはずなんだけど…。
エルフ相手ならいいんだろうか?
(まあ、そのおかげで助かってる訳だし、文句言えないけどね。)