104.占い師のおばあさん
やっぱり長めの1800字ほど。
1時に通常の投稿もします。
カツッカツッ
アニスさんがドアの貝を叩くと、内側に向かってドアが開いた。
…自動ドアですか?
「こんにちは。アニスです。」
「よく来たね。異界の娘。そこにお座り。」
中にいたのは揺り椅子に座った小柄なおばあさんだった。
フード付きの外套をすっぽりかぶっているので、体色はわからない。
見るからに怪しいけど、嫌な感じはしない。
それより今言ったのって?
「ジジさんっ。」
「ここにいるのは、知ってるものばかりさ。」
アニスさんの焦った声におばあさんが静かに答える。
知ってる者ばかり…シードさんも?
振り向くと、目の合ったシードさんが頷く。
そりゃそうだよね。私の事情って特殊だから、護衛頼むからにはクルビスさんはちゃんと話していると思う。
アニスさんも私たちのやり取りを見て納得したようだった。
「さあ。お茶を用意したんだ。お前さんの話を聞かせておくれ。」
シワのある手で横のテーブルに置いてあるお茶を勧められる。手の色はブロンズっぽい色だった。
カップは4つ。湯気が立っていて、良い香りが部屋に広がっている。
「相変わらず、用意がいいなあ。」
シードさんが苦笑しながら席につく。
それに続いて、アニスさんと私も席についた。
丸いテーブルだから、皆の顔が見やすい。
おばあさんの両隣はアニスさんとシードさんで、私はおばあさんの向かいに座った。
「来るのはわかっていたからね。」
おばあさんの答えにビックリする。
来るのを知ってた?私たちが?それって、予知ってことですか?
(わあ~。ファンタジーっぽい。占い師のおばあさんって感じだよね。いいアイテムの場所とか教えてくれそう。)
ファンタジーな予感にわくわくしていると、おばあさんが面白そうに私を見ていた。
顔に出てました?
「…面白い娘だね。私が怖くないのかい?」
「何がですか?」
怖がる理由が思い付かない。
首を傾げて、手元のお茶を見る。
勧められたお茶は淡い黄色でウーロン茶みたいな味だった。
横浜の中華カフェで飲んだお茶みたいだ。
独特の香りだけど、とても美味しい。良いお茶なんだろうな。
こんなに良いお茶をいれてくれるひとを怖がる理由がありませんが。
「いい香りですね。こんな良いお茶を淹れて下さる方を怖がる理由がありません。」
お茶の香りにうっとりして言うと、フォッフォッフォッとしゃがれた笑い声が聞こえた。
おばあさんが笑っている。何で?
「?」
「成る程。資質が良い。黒の子よ。」
おばあさんの話を聞いてハッとする。
頭には布を巻いたままだ。髪の色なんてわかるはずがない。
(見えてるんだ…。このひと、本物だ。)
直感でそう感じる。お祖母さんは見たままを言ってるんだって。
フードから除く金色の目は澄んでいて、どこまでも見透かされそうだ。
(怖くないのかって、こういうこと?…でも嫌な感じしないんだけど。)
むしろ、すごい占い師だって思いますけど。
感じたままを伝えることにする。
「すごいですね。私、本物の占い師さんに初めて会いました。」
「私が占い師に見えるのかい?」
「そう思いました。違ってたらごめんなさい。」
私が言うと、再びフォッフォッとお祖母さんは笑う。
このお祖母さん、ルシェリードさんみたいだな。話していて、長い年月の片鱗を感じる。
「本業はそうだね。天候や災害を見るのが役目さ。花屋は副業だ。」
ああ。やっぱり本物の占い師さんだ。じゃあ、ここって花屋兼占いの館なんだな。
すごいひとに会えたなあとわくわくしていると、ずいぶん静かなのに気がついた。
「「……。」」
視線を動かすと、シードさんとアニスさんが目を見開いて私を見ていた。
何かありましたか?
「気にしなくていいよ。私は魔素が多くてね。初めての客は大抵が萎縮するんだ。
平気そうに話してるから、驚いたのさ。」
成る程とおばあさんの説明に納得する。
ルシェリードさんにヒヨコもどきが怯えちゃったのと同じような感じだよね?
訓練を見ていたルシェリードさんに教えてもらったけど、大きすぎる魔素は相手の負担になることがあるらしい。
私もその可能性があるから、魔素のコントロールはしっかり覚えるように助言された。
「そうなんですか。私は平気みたいです。」
「そのようだね。しかも、楽しそうだ。」
おばあさんに図星を指される。
やっぱり、わくわくしてるのバレました?