103.花屋さん
今日も長めの1800字。
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「もう…お腹いっぱいです…。」
自分の顔の半分もある揚げ肉まんを食べきって、何とか言葉を発する。
こっちの食事ってボリュームが多い。取り分けてもらった量も、普通に1人前くらいあったし。
今までの食事は私用に加減されてたんだなあ。
でも、美味しかった。さすが名物料理。
先に食べたステーキやパスタなんかも美味しかったけど、後から来た揚げ肉まんは皮がパンのように弾力があって、食べごたえがあった。
中は牛肉っぽいひき肉と野菜のみじん切りを混ぜたもので、四角い皮の見た目はでっかいはんぺんだ。
味は胡椒を利かせたシンプルなもので、飽きのこない味だった。
揚げてあるのに、それほど脂っこくないのも高ポイントだったな。
「もういいのか?まあ、結構食ったよな。これなら昼過ぎも持つだろ。」
シードさんは私とアニスさんが大方食べ終わったのを見て、大皿ごと手元に引き寄せる。
そして、ひょいパクッと軽快に料理を口に運び始める。まだ入るんですね。
(クルビスさんもこれくらい食べるのかな…。)
一緒に食事した時のことを思い出す。
…私より多かったけど、ここまでの量じゃなかったはず。
「すごいですね。隊士の方って、皆さんこれくらい食べられるんですか?」
「いや?個体差があるぜ。俺なんかは隊士の中でも大食いだな。」
「ヘビの一族の方は皆さんよく食べられますよね。」
ああ。シードさんがよく食べるんだ。納得。
ヘビの一族は大食いなのかあ。役に立つかわからないけど、覚えておこう。
「ん。ごちそうさん。ここのはいつも美味いな。
…まあ、大食いはうちの一族の特徴だな。親族が集まっての宴会だと会場の半分は食いもんだしな。」
会場の半分…うわあ。用意するのも片付けるのも大変そう。
一族の特徴かあ。トカゲの一族もあるのかな。クルビスさんに聞いてみよう。
「それはすごいですねえ。」
「じゃあ、リリィ副隊長が胸焼けがするってよくおっしゃるのも…。」
「ああ。あいつ、親父や叔父貴たちに勧められたもんを全部食うんだよ。付き合わなくていいのにな。」
ひいいっ。その会場の半分を埋める食事に付き合うんですか。うわあ。
でも、お養父様や叔父様方に勧められたら、断れないよねえ。ヘビの一族のお嫁さんって大変だあ。
「それは断りにくいでしょうね…。」
「ええ。今度、強めの消化剤を調合しときます。」
私とアニスさんが何とも言えない表情で返すと、シードさんも仕方ないって感じで顎をかいていた。
「ま、そうなんだけどな。アニス。消化剤、早めに頼むぜ。近いうちに、また一族の食事に連れて行く予定なんだ。」
「了解しました。」
シードさんが肩をすくめて言うのに、アニスさんが真面目に取り繕って答える。
でも、二人とも目が笑ってるから、茶目っ気たっぷりに見える。
「で。この後は髪飾り見に行くんだったか?」
「ええ。ジジの花屋に連れて行こうと思ってます。」
花屋さんかあ。今日は花を買う気はないけど、どんな花があるのかは見たいなあ。
今日買った服と合うやつを見ておきたい。
「なら、そろそろ出るか。席も埋まってきたしな。」
確かに店内は騒がしくなっていた。お客がどんどん入って来ている。
さてと。それじゃあ移動しますか。
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「う。わあ。すごい数…。」
歩くのもままならないほどの通行人だ。
押しつぶされないように注意しながら進んでいく。
「っ。確かに。気を付けろよ。」
真後ろでシードさんの声がする。
振り替えれないけど、すぐ後ろにいるんだろう。
「手を、離さないで、下さい、ね。」
人混みをかき分けながらアニスさんが進んでいく。
私はそのすぐ後ろに並ぶようについて行ってる。
「こ、こです。」
やっと人混みから抜け出すと、そこは一面の花畑だった。
呼吸がすごく楽だ。ここが花屋さん?
息を整えながら、改めて周囲を見渡すと、2mくらいの幅の通路が奥まで続いているようだった。
床も壁も花で埋め尽くされている。真ん中にかろうじて1人通れる幅の道があるだけだ。
天井からは綺麗な布が幾重にも重なって、とても幻想的だ。
え?ここ花屋?
お店の中をアニスさんに手を引かれて進んでいくけど、右に曲がった道が延々続いているだけだ。
もちろん、通路は入口と同じように花で埋め尽くされていた。
外の喧騒は、お店に一歩入った瞬間から聞こえなくなっている。
まるで別世界だ。こころなしか、空気がひんやりとしている気がする。
花に見とれながら進んでいると、不意にアニスさんが立ち止まった。
アニスさんの前には木の扉がある。
(…今の今までなかったよね?これって、幻覚?)
ここ本当に花屋さん?
魔法使いや呪術師の家とかでなく?