102.名物料理
長めの1900字。
「お待ちどうさま~。お任せ木の実ジュースとセパのステーキにカカのパスタ、メルヴェの包み焼きね~。残りは、出来次第持ってくるから~。あ。これ、取り皿。」
ヒヨコもどきのことを心配していると、美味しそうな匂いと共に大きなお皿がドンドンッと置かれる。
もう料理が来た。これが名物料理かあ。ステーキにパスタにパイ包み焼き?
見た目は見知った料理ばかりだ。
材料は…考えない考えない。馬肉だって食べるんだから、セパだって食べるよねっ。
「おお~。早えなあ。美味そう~。」
「本当に。これならソースも調味料もハルカさんは大丈夫ですよ。」
シードさんとアニスさんも目を輝かせている。
お腹一杯かもとか思ったけど、私もいけそうだ。
40cmくらいの大きなお皿に、20cm以上はあるステーキや私の顔くらいあるパイがいくつも載っている。パスタなんて山盛りだ。
ステーキの厚みは1cmくらいあって、すごいボリュームに感心しながらも、これ1枚を食べれるか不安になってきた。
「今、切り分けるから待ってろよ。」
シードさんがそう言ってお肉やパイを切ってくれる。ありがとうございます。
アニスさんが、そのうちの1きれずつを取り皿に取って渡してくれた。
至れり尽くせりですみません。
でも、いろんなソースをかけてたから、お任せして良かったと思う。私じゃわかんない。
「んじゃ、ハルカがルシェモモに来たのを祝して乾杯しようぜ。」
「ええ。ハルカさんがルシェモモで上手くいきますように。」
「ハルカが早くこの街に馴染むことを祈って。」
「…ありがとうございます。」
私のために?嬉しいなあ。ちょっと目が潤んじゃったよ。
いくらルシェリードさんたちに認めてもらったと言っても、こんな風に歓迎されたのは初めてだ。
今日が特別なだけで、またしばらくは大人しく隠れる日々が続くんだろう。
でも、こんな風に歓迎してもらえるなら、受け入れてもらえるなら、頑張れると思う。
この時飲んだジュースの味は一生忘れないだろう。
ちなみにオレンジジュースでした。やっぱりオレンジがあるんだな。
「さて、食うか。」
シードさんの言葉で食事が開始する。
まずはセパのステーキから。一般的に食べられているようなら、慣れておかないとね。
ナイフとフォークで切って口に運ぶ。赤いソースもちょっとつけて。
噛んだ瞬間、甘い肉汁が口にふわりと広がる。でも、酸っぱめのソースがしつこくないようにしてくれている。
「んっ。」
「口に合ったみてえだな。」
「良かったです。」
顔に出てたらしく、シードさんとアニスさんはホッとした様子だ。
文句なんてありませんとも。美味しいですから。
(セパって豚肉だ。あっさりめの。)
味の濃厚さは豚肉なんだけど、私の知ってる豚肉よりあっさりしていて、鶏肉に近い印象も受けた。
そういや、ヒヨコもどきは豚の鳴き声だったっけ。肉の味も豚に似てるんだ。
次は、パイ包みを一口。
中はひき肉とお野菜みたいなのがぎっちり詰められていた。パイ生地と合わせていただいて。
(お~。ミートパイだ。美味しい~。)
こっちのお肉は牛肉みたいだった。でも、スパイスが利いていて、お肉の臭みは感じない。
緑色のお野菜はホクホクしてる。この感じはおいもかな?
パイ生地のサクサク感と合わさってとても美味しい。
パイ生地ってこんな風にさくさくにするの難しいのに。すごいなあ。
最後にパスタ。これは、正式な細長いパスタだった。
こっちの形もちゃんと伝わってるんだ。
紫のソースにオレンジの粒粒がかかってるのは気にしない。
フォークでくるくる。
(…ジュノベーゼ?っぽい?)
バジルソースのようなハーブの香りが口の中に広がる。こっちの方が香りが強いけど。
少しピリッとしてるのは、上にかかったオレンジの粒粒みたいだ。粉チーズじゃないのね。
どれも見た目にも、味にも食べやすいものばかりだ。
材料は異世界のものだから、味は似てるようで違うけど、それはそれで楽しい。
「綺麗に食べるな。」
「故郷の料理に似てるので。」
「へえ。良かったな。食いものが合わないと辛いもんなあ。」
シードさんが私の食べ方を見て感心したので、素直に故郷の料理に似ていると言った。
変に隠しても仕方ないもんね。
それにしても、さっきといい、今といい、シードさんは私が抵抗なく食べれるのを喜んでくれてるみたいだった。
何でだろうと思って、アニスさんを見て納得する。
この街には、いろんな種族がいると聞いた。それなら、当然、食べ物の合う合わないの問題はあると思う。それを心配してくれていたんだろう。
アニスさんもそうで、彼女はいつも私が食事を楽しむのを喜んでくれる。
心配されてたんだなあ。こういう気遣いはとても嬉しい。
本当にこの街に来れて良かった。
クルビスさんだけじゃない。この優しいひと達にも会えて良かった。