100.早めのお昼ご飯
「移動しようぜ。店締めの混乱に巻き込まれちまう。」
「そうですね。ハルカさん。花屋に行って髪飾りを見ましょうか。」
あ。髪飾り見たい。
頭に巻く布も欲しいし。
「先に食事の方がいいわよ。今日はここの噴水が開く日だから。」
次の行き先を決めたところで、ヘビのお姉さんから待ったがかかる。
噴水が開く日…。何か特別なことなの?
「あーっ。しまった。そういやそうだったな。」
「そういえば。今日でした。」
シードさんとアニスさんが『しまった』という顔をしている。
何か特別な日なんですね。
「ハルカ。チョイ早いが、先に昼でいいか?
ここの噴水は作りが凝っててな。名物になってるんだ。
見物客が押し寄せるから、席が無くなっちまう。」
ああ。遊園地なんかである、凝った作りの、水の出方が変わってるやつですね?
成る程。見物客が集まる程なら、お店も一杯になるか。
「そういうことなら、先にお昼にしましょう。」
「いやー。すっかり忘れてたぜ。ありがとなキーパー。」
「ふふ。そうじゃないかと思ったのよ。言って良かったわ。
さあ。片付けが本格的になる前に出た方が良いわよ。」
ありがたい忠告に従うことにする。
お姉さんに会釈をして、市場の中を戻っていくと、あちこちで片づけをしていた。
感心したのは、商品を並べていた木の台が荷車だったこと。
良く見ると地面からちょっと浮いていて、下から車輪がのぞいていた。
木の台の四隅から棒を引き揚げ、棒の間に板を差し込んで紐で縛れば荷車の完成だ。
はたから見たら、でっかい木の箱を押しているようにしか見えないけど、結構な量の荷物が運べそうだ。
テントは運動会の後片付けよろしく、ポールはポール、テントの布は布といったように一か所に固められている。
皆さん、動作に迷いが無い。きっちり決められているんだ。
「ハルカ。もうチョイ急げるか?」
感心していると、シードさんが後ろから声をかけてくる。
周りを見てたせいで足が遅れたかな?
「はいっ。」
返事をして、足を急がせる。
アニスさんも速度を上げて、駆け足寸前の速度で市場を出た。
「っと。やっぱ数が増えてんな。」
確かに周りの人混みが酷くなってる。
思うように速度が出せないので、歩くスピードは元に戻った。
「お昼は何を食べたいですか?」
アニスさんが聞いてくれる。
何をって聞かれても、知らないからなあ。
「ここの名物料理を食べてみたいんですけど。」
「ああ。なら、ウィシュカの店がいいんじゃねえか?」
「そうですね。ハルカさん。黄色いきのこのところです。すぐそこですよ。」
アニスさんに手を引かれてたどり着いたお店は、彼女の言った通り黄色いキノコのパラソルが並ぶお店だった。
大きなお店だけど、席はまばらに埋まっている。
(まだ10時半だもんなあ。食べられるかな?)
朝が早い分、お昼が早いのにも慣れてきたけど、さっきわらびもちを食べたばかりだ。
あまり入らないかもしれない。
「今なら空いてるな。奥の席だ。アニス。」
「はい。」
アニスさんに手を引かれてお店に入って左奥の席に座る。
奥の方が涼しいなあ。だから奥に座るのかな?
「早速、注文するか。名物っていうと、この辺だな。」
シードさんが見せてくれたのはメニュー表だった。
まだ字は読めないけど、簡単なイラストも載ってるからわかりやすい。
ステーキにパスタ、チャーハンに…何だろこれ。
四角いパンみたいなんだけど、半分にわかれた中に具が一杯詰まってる絵が描かれている。肉まん?
「ルシェモモ名物っていっても、北地区の名物だけどな。地区ごとに名物が違うんだ。
この辺は、大半が深緑の森の一族が伝えたレシピが元になってる。」
ああ。どうりで見慣れたものが描かれていると。
エルフが元なら、あー兄ちゃんが元ネタなのがあるだろう。
それなら、どれでも食べやすそうだ。
材料さえ考えなければ。
「1つ分はどれくらいの量なんでしょう?」
「数の分だけまとめて大皿で来ますから、食べれる分だけ取ればいいですよ。シード副隊長もいますし。」
「そうだぜ。なんなら、名物のやつ端から持ってきてもらって、食べ比べてみるか?俺ならこれ全部でも完食出来る。」
入るんだ。シードさんって結構細身だと思うんだけど、どこに入るんだろう。
でも、食べれるだけ食べていいならありがたい。シードさんの提案に乗らせてもらおう。
「それなら、いろいろ食べ比べてみたいです。」
「よし。じゃあ、注文するか。」
シードさんはそう言うと、テーブルの真ん中にある黄色い石に手を置いて、メニューを読み上げる。
テーブルが黄色っぽい木製だから、石があるのに気付かなかった。え。これで注文出来ちゃうの?
「んで、セパのステーキな。焼き加減はしっかり目でよろしく。以上だ。」
…セパのステーキ?セパ?セパって…。
えええっ。ヒヨコもどき食べちゃうのっ?