99.乾物屋さん
「お砂糖って高いんですね~。」
蜜屋さんを後にして、市場の中を進みながらしみじみと言った。
今も通り過ぎる店の値段をチェックしてるけど、お砂糖は私が買った店と似たり寄ったりな感じだ。
ただ、砂糖と草が並んで売られてたり、砂糖と干からびた何かが並んで売られてたりと、お店によって砂糖と一緒に売る品が全く違うのが不思議だった。
砂糖ってどういうカテゴリーに入るんだろう。調味料じゃないのかな。
蜜はほとんどが2つで1や3つで2と書いてあった。
私が買った蜜は、ピックの蜜は高めで1つで2、べべリアの蜜は1つで1、キュルリは2つで3だった。
砂糖は1番安いので1つで10だったのに…。
蜜の方が安かったのもあって、ピックの蜜を3つ、べべリアの蜜を2つ、キュルリの蜜を2つ買った。
砂糖のさじと違って、蜜はお玉一杯で1つで、結構大きなおたまだった。
お玉の大きさは私の両手を合わせたくらいはあって、結構な量を買ったと思う。
「ああ。個別で買うとな。」
「たくさん買う方が安いですから、大抵は近所でまとめて買って分けるんですよ。」
シードさんとアニスさんが私のつぶやきにわざわざ答えてくれた。
私が砂糖も蜜もたくさん買うものだから、ふたりとも驚いてたな。ま、お菓子作るのに使うって知ってるから止められもしなかったけど。
そっか。単体で買うほうが高いのか。
だからあんな値段なんだ。それでも高すぎる気がするけど。
「それでも、日常で使うには高めですよね?」
「個別で売るとなると、高価な保管箱や保管壺を使う必要がありますから。魔素の維持費がかかった分、値が上がるんです。」
魔素の維持費…。そっか。味とかじゃないんだっけ。
厨房にあったのも、ごついケースが多かったしなあ。あれ、高いんだろうな。
「砂糖は結構もつし、魔素の量も多い。
病気や怪我の回復に薬の代わりに使うんだ。
だから、高くても需要はあるんだよなあ。」
シードさんがさらに詳しく説明してくれる。
薬の代わり…。魔素が多くて保存が効くから。
あ。じゃあ、今まで見た砂糖と一緒に売られてた草や干物みたいなのって、もしかして薬?
成る程なあ。魔素がなくなると消えちゃう世界だもんね。魔素の多い食べ物は薬みたいなもんなのか。
「この辺が海藻や乾物を扱う店です。ゼリーの材料もここで売ってますよ。」
ここら辺が…。壺や箱が並んでいたさっきまでの風景とは違って、ここら辺は台の上にじかに品物を並べている。
乾物というから、もっと暗い、茶色いものを想像してたけど、とんでもない。
まあ、色があふれていて、目が散ってしまう。
乾物や海藻と言ってたから、海藻がカラフルなのかもしれない。サラダに出てきたし。
「ああ。あそこが俺とリリィがいつも買う店だ。値段と品のバランスか良いぜ。」
シード副隊長が指さした先には、カラフルな紐がたくさんぶら下がってるお店だった。
シードさんおすすめの店かあ。ここにしようかな。
「あ。じゃあ、ここにしましょう。」
「ご紹介どうもありがとう。いらっしゃい。副隊長さん。今日はかわいいお連れさんね。」
声をかけてきたのはシーリード族のお姉さんだった。
頭の布がお揃いだ。青い花も飾ってる。太い尻尾が見えたから、ヘビの一族じゃないかな。
細身で身長はわたしより10cm高いくらい。シードさんみたく模様はないみたい。
薄い黄色のような白っぽい色の体色をしていた。目がピンクだから、アルビノのようにも見える。
「客を連れてきたぜ。今日は同僚の荷物持ちだ。ゼリーの元はあるかい?」
「あら、ありがたいこと。ゼリーの元ね?どれくらいいるの?」
「ああ。いるのはこっちさ。故郷の味を再現したいんだと。」
話がこっちに来てあせる。
ええと、そもそも、どれくらいの量でどの程度作れるんだろう?
「えっと、1つでどれくらいのゼリーになりますか?」
「そうねえ。これ1つで、だいたい、カフェで食べる大皿のゼリーくらいなんだけど…。わかる?」
薄いブルーのキラキラした野球ボールを持って、お姉さんが説明してくれる。
あれがゼリーの元か。でも大皿って…。
「さっき食ったあれだよ。」
シードさんが助け舟を出してくれる。
結構あるなあ。あれって直径20cmはあったけど。
「あ。じゃあ、2つ下さい。失敗するかもしれないんで。」
多めに買っとこう。豆であれだけ手間がかかったんだし。ルドさんにも聞いてみなきゃ。
初めての食材で1つは心許ない。1つ3だし。
「はい。副隊長さんのお連れだから、5でいいわ。良かったら、また今度、どんなのを作ったか聞かせて下さいな。参考にさせてもらうわ。」
「ありがとうございます。じゃあ、次の時にお話しますね。上手くいくといいんですけど。」
「ふふふ。そう言ってる時が一番楽しいのよ。」
確かに。こんな風に考えてる時が一番楽しいのかも。
実際どうなるかは想像もつかないけど。
「あら。そろそろ店締めね。寄ってくれてありがとう。」
え。もうそんな時間?
買い物に夢中で気がつかなかった。