98.蜜屋さん
「ほいっ。オマケしといたぜ。次も是非うちで買ってくれ。」
明らかにさじ1杯より多めにつめて、おじさんが調理袋を渡してくれる。
こういうのって嬉しいよね。また次も買っちゃおうかなって気になる。
「はい。ありがとうございます。」
おじさんの好意に感謝して、次に移動する。
お砂糖買ったら、次は蜜屋さんだ。
たしか2件隣だっけ?えっと、袋のお店とは違う方向だから…。
あの壺がたくさん並んでるお店かな?
「あそこが蜜屋ですよ。このお店は種類が多いですね。」
壺の数だけ蜜があるなら、たしかに種類は多そうだ。
ざっと見て20はある。
「いらっしゃい。聞こえていたよ。用意しといたから、味見だけでもしてっとくれ。」
蜜屋さんはシーリード族のおばさんだった。トカゲっぽいけど、違う気もする。
鮮やかな黄色の体色に紫の蔦のような模様が腕にある。…刺青じゃないよね?
背は私より高く、全体的にがっしりした感じだ。ピンクの三角巾とエプロンが可愛い。
おばさんが差し出してくれたお皿には、色とりどりの蜜をすくったスプーンが並んでいた。
「わあ。ありがとうございます。」
香辛料のお店で話してたのは丸聞こえだったようだ。
味見はさせてもらう気だったので、ありがたく受け取った。
お皿には見慣れた黄金色の蜂蜜から、わらびもちにかけたような黒蜜色、それに、葡萄ジュースみたいな紫にピンク、ベリ-レッドな色に何故か青に緑まであった。
これが蜜って、元はどんな花なんだろう…。
「良い香りですね。私もこの蜜試していいですか?」
「はいよ。これは今日のおすすめだよ。ピックの蜜さ。」
「ピックの蜜かい?ずいぶん早いねえ。」
私が蜜の試食を始めると、アニスさんとシードさんも興味を持ったみたいだ。
ピックが花の名前かな?シードさんは知ってるみたいだけど。
「そうだよ。今朝、火山島で一斉に咲いてさ。今年1番のやつだよ。」
「へえ。そうなのか。リリィに教えてやらなきゃな。」
(火山島?島があるんだ。まあ、後でフェラリーデさんに聞けば教えてもらえるよね。)
おばさんとシードさんはその火山島の話で盛り上がっているようだったけど、 知らない場所の話はわからないので、蜜を堪能する方に集中することにする。
どれも美味しいけど、風味は全部違う。花の香りのものが多いけど、ラベンダーっぽいのもあれば、ベリーっぽいフルーティーなのもある。
甘みの強さもまちまちだ。ちょっと酸味のあるものもあったし、濃厚な甘みのものもあった。
でも、くどくは無い。これは売れるわ。
「美味しかった。ありがとうございました。欲しい蜜が決まりました。」
「そりゃ良かった。何が良かったんだい?」
全部試食して、結局、最初に食べた黄金色の蜜と紫の蜜、それに、意外なことに青い蜜が気に入った。
この3つは、香りが強くなくて、後味があっさりしてたのが決め手だ。
「えっと、黄金色…濃い黄色、何て言えばいいんでしょう。この蜜と、紫の蜜と青い蜜をいただきます。」
「ああ。金色でいいよ。ピックの蜜は皆が『金の蜜』って呼んでるからね。それと、紫はべべリアの蜜、青はキュルリの蜜だよ。どれも、女性に人気さ。」
女性に人気…。じゃあ、ルシェモモの女性たちと好む味が似てるってことだよね?
良かった。それなら、お店に食べに行っても『女性に人気のメニュー』を注文できそうだ。
色に対する認識も似てるみたいだし、生活もしやすそうだ。
問題は名前だな。ピックにべべリア、キュルリ…覚えられるかな。