97.お砂糖ゲット
「砂糖は知ってるみたいだね。もし、甘いのが欲しいなら、2件隣に蜜屋がある。そこならいろんな花の蜜が買えるよ。」
「蜜屋?」
「ハルカさん。さっきゼリーに蜜をかけたでしょう?あれも花の蜜なんです。そういう蜜ばかりを専門に扱うのが蜜屋です。」
なんとビックリ。黒蜜はホントに蜜だった。
花の蜜だったんだ。どんな花なんだろう。
「あれも蜜だったんですか。」
「ルシェモモじゃあ、甘みは基本、蜜だよ。
さっき言った店なら味見させてもらえるから、好みの蜜を探すといいよ。」
「はい。そうします。あ。でも、その前に、お砂糖いただけますか?」
「おお。まいど。お嬢さん、料理人かい?」
「いいえ。寒い辺境の出身なんで、砂糖の方が手に入りやすかったんです。」
「ああ。成る程なあ。寒いとこじゃ、花の蜜はあんま取れねえもんな。」
これは、昨日フェラリーデさんに確認しておいたことだ。
私は雪が降るような寒い辺境の出身という設定だ。
花の数も少なく、蜜はあまり手に入らない。
だから、魔素の失われにくい砂糖の方が使い慣れている。
これなら、砂糖中心のお菓子のレシピを公開しても不自然に見えない。
昨日、自分の設定をノートにメモして、必死で頭に叩き込んだ。
「はい。使い慣れたものも欲しいと思って。」
「うんうん。慣れた味も恋しくなるしな。じゃ、どれにする?」
そうだなあ。白いのもほしいけど、黒砂糖ならぬミント砂糖を試してみたい。
1つってどれくらいの量なんだろうか?
「1つってどれくらいの量ですか?」
「このさじ1つだよ。」
大きいさじだから、片手でガバッとすくうくらいある。
これなら、3つ分くらいは欲しいな。でも、お値段が…。
「じゃあ、一番右のを1つ、真ん中のを1つで。」
お金はあるんだけどね?値段を見ちゃうと、ついつい少なめに買ってしまう。
一番安いので10だもんね。他の香辛料の値札は3とか5なのに。考えちゃうよ。
「まいどありっ。全部で25だよ。調味袋は持ってるかい?」
「調味袋?」
「今、アニスが隣で買ってるぜ。」
シードさんが横を指さす。
すると、袋ばかり売っているお店で、アニスさんが会計をしてるところだった。
「お待たせしました。すみません。説明してませんでした。
これが調味袋で、名前の通り、調味料を保存する袋です。箱より保存期間が短いですが、ルシェモモではこれが一般的です。」
そう言ってアニスさんが差し出したのは、革製の袋だった。
底が丸い形で、下半分は固い筒状になってて、上半分は柔らかい。袋の口には、密閉用のジッパーがついていた。
(…冷凍用の保存袋?)
筒状なのは違うけど、出し入れする部分の構造は見慣れた作りをしていた。
とっさに浮かんだのは、冷凍の時に食材を入れておく袋だ。これなら保存が効きそうだ。
ふーん。ルシェモモでは、袋で調味料を保管するんだ。
そういえば、家では砂糖の保管に陶器の壺みたいなの使ってたって言ったら、そう言えばいいってフェラリーデさんに言われたなあ。辺境じゃ壺なんだろうな。
「これが…。持ち運びが楽ですね。」
「辺境じゃあ、壺や箱で管理して必要な分だけ取るもんな。砂糖ならこれで半年はもつよ。」
おじさんが親切に教えてくれる。
半年もつ…もちろん魔素のことだよね。
(結構もつなあ。もうチョイ買っても…いやいやいや。それはマズい。散財する。)
砂糖は高いから、ほいほい買ってたら変に思われる。
一昨日のお菓子作りでも、砂糖のレシピを珍しがられたところだし。気をつけなきゃ。