10.髪ゴムの開発
「ああ、髪留めに使うんだって?面白いこと考えるね~。」
すっかりいつもの調子に戻ったメルバさんが朗らかに笑う。
お医者さんモード終了かな?最初はびっくりするけど、これはこれでわかり易くていいかもね。
「はい。日常的にゴムを使っていたので、同じように使えたら便利だなと思いまして。」
「うんうん。ハルカちゃんの髪留めをちょっと見せてもらったけど、ゴムを布でくるんじゃうのはいいね~。
あれならゴムで縛ることも出来ると思うよ~。向こうの技術者も上手いこと考えたよね~。」
あ、髪留めに出来そうなんだ。よかった。
あれがあるかどうかで、朝の支度が全然違う。
メルバさんの言うとおり、あのゴムを考えた人ってすごいよね。布があるだけで、髪に引っかからないんだもん。
簡単なようだけど、最初の発想ってすごく難しいと思う。
まあ、こっちのゴムの場合は滑りすぎるのを布で止めやすいようにするんだけど…。
フェラリーデさんはすぐ出来るって言ってたけど、今までなかったものがそんなにすぐに出来るのかな?
「じゃあ、作ることは出来るんですね?」
「うん。あれなら、似た作りのひもがあるから応用ですぐに出来ると思うよ。
ただ、ハルカちゃんが元ネタっていうのは黙ってた方がいいかな。技術者っていうのは、新しい発想や工夫に弱いから、ハルカちゃんのところに押しかけてくるかもしれないし。」
あ、すぐ出来るんですね。でも、押しかけてくるって…。
あ~。そういや、そんな感じの話を昨日フェラリーデさんたちに聞いたかも。えっと、確か…。
(…確か、この街は技術都市で、技術が財産なんだっけ。で、私の知識はお金になるから危ないってことだったよね?)
メルバさんに相槌をうちながらも、昨日の話を頭の中で具体的に思い出していく。
そうだった。だから、私が知ってることを外で気軽に話しちゃいけないんだった。
相手がフェラリーデさんだったからよかったけど、今朝みたいに思い付きで話すのは控えよう。
シュシュが目立ってマズいっていうのに気を取られ過ぎたなぁ。
メルバさんの言う通り、私が元ネタっていうのは黙ってた方が賢明だな。
いろいろ聞かれるうちにボロが出ると思うし。
「…そうですね。この街では技術が財産なんですよね?なら、私が言ったというのは黙ってた方が賢明ですよね。詳しく聞かれても、説明しきれませんし…。」
頷きながら答えると、メルバさんがうんうんと相槌をうってくる。
この感じだと、ホントに押しかけてくるんだろうなぁ。何か思い付いた時は良く考えてから話すようにしよう。
「では、私が元ネタなのは秘密として、髪ゴムはすぐ作れるんですね?」
「うん。もう僕の名前で頼んであるから、早ければ今日中には試作品を持ってくると思うよ。」
「えっ?もうですか?」
メルバさんの話に感心のため息が出る。
仕事が早いですねぇ。しかも今日中に試作品とか…。
仕事で新製品開発してた時は、試作を作るまでに準備と時間がかかったけどなぁ。
まあ、髪ゴムはシンプルな作りですけどね。
(このあたりは技術都市の面目躍如ってとこかな。仕事が早いって素晴らしいわ~。
それだけ、技術者のレベルが高いってことか…。あ~っ。早く街に出てお店覗いてみたいなぁ。)
頭の中を昨日通りすがりに見たお店たちでいっぱいになる。
食べ物を売ってるお店もあれば、薄い布が幾重にも垂れ下がっているお店もあった。
(どんな商品を置いてるんだろうなぁ~。雑貨とか小物とかどうなってるんだろ。)
まだ見ぬ小物たちに思いをはせていると、クスリと笑い声が聞こえた。
声の主はメルバさんだ。え、私、もしかして締まりのない顔してましたか?