96.香辛料と調味料のお店
「ここは香辛料と調味料のお店ですね。」
そう言って、アニスさんが近くのお店に寄ってくれる。
さっき目についたねじれた角みたいなのが売ってたお店だ。
「香辛料と調味料…ですか。」
見えない。
どうみても魔女の薬の材料だ。
かろうじて、壺に入ってる粉状のものたちが砂糖や塩っぽい感じだけど、他は、赤いねじれた角に干からびた昆虫、黒焦げのオタマジャクシといった怪しいものばかり。
(さすが異世界…。ていうか、どうやって使うの。これ。)
「お嬢さんはルシェモモは初めてかい?」
お店の獣人のおじさんが聞いてくる。
髪も三角のお耳も赤と緑のしましまだ。クリスマスカラーかあ。
「はい。来たばかりなんです。どれも見たことの無いものばかりで珍しくて。」
「はははっ。そうかいそうかい。うちは遠い西の辺境のものを多く取り扱ってるから、珍しいもんが多いよ。気になったのはなんでも聞いてくれ。」
気さくなおじさんだ。
このおじさんになら、いろいろ聞けそう。
「たとえば、そうだなあ。この角は粉末を煮詰めて使うな。苦いが、豆の煮汁を固める働きがあるし、身体に良い。深緑の森の一族に好評だよ。」
豆の煮汁を固める…。そんでもって苦い…。
もしや、『ニガリ』ですか?
「アニスさん、使ったことあるんですか?」
「ええ。うちの一族では各家庭に必ず置いてあります。
豆の煮汁を固めたものは『トフ』と言うんですけど、あっさりして美味しいんですよ。」
トフって…。ほとんど、まんまじゃないですか。
元ネタは…わかりきってるからもういいや。
「俺はチョイ苦手だなあ。豆臭いしよ。料理に混ざってるやつならいけるんだがな。」
「そのままでも好きだって方、結構いますけど…こればかりは好みですしねえ。」
「はははっ。まあ、こんな感じで種族によって評判は違うんだ。来たばっかりなら、まず、いろいろ食べてみるのも手だぜ。
俺は3級だが、調理師の資格も持ってるからよ。料理の名前を言ってくれりゃあ、大体は使われてるもんがわかるぜ。隠し味とかはさすがに無理だけどな。」
そうだなあ。見ても使い道が全然わからなかったし、ルドさんに教えてもらった方がいいかなあ。
塩とか砂糖とかは見ればわかるんだけどね。微妙に色がついてるのが気になるけど。
「そうですね。まだあまり食べてないんで、味の想像がつきませんし。
…そっちの壺に山盛りになってるのは?」
「ああ。これは塩と砂糖だよ。塩は地域によって色も味も違うからな。いろんな色があるだろう?
そっちの白から空色がかったのは全部砂糖さ。白いほど、精白の手間がかかってるんだ。」
はあ~。塩ってそんなに種類があるのか。
薄いピンクに、薄い水色、薄い緑に薄い黄色…色合いは薄いけど、本当に色とりどりだ。
薄い紫もあるし、10色くらいあるなあ。
一方、砂糖はミントグリーンがグラデーションで並んでる。
左が一番白くて、これは一昨日厨房で見たやつと同じくらい。右に行くほど色が濃くなる。
白い砂糖を合わせたら6つの砂糖が並んでる。
値段はグラデーションに沿って数字が大きくなってるみたいだ。
白いのが一番高いみたい。
壺に張り付けてある数字が白いのは1つ・100、一番濃いミントグリーンは1つ・10となっている。
これ、壺に突っ込んであるさじ一杯ってことかな。
値段差が10倍って、すごいな。