95.異世界の市場
「うわあ。すごいですねえ。」
「ああ。今までと景色が違うだろ?ここはミレー通りの中央広場だからな。ここ一杯に市場が開かれている。」
目の前に並ぶテントの数に圧倒されていると、シードさんが市場の説明をしてくれる。
広場なんだ。テントで埋め尽くされてわからない。
(え~と。確か、ミレー通りが北地区の中心の通りなのよね?じゃあ、今この辺かあ。)
皆さま、両手をご用意下さい。人差し指と親指で90度の直角をお作り下さい。
その状態で左右の人差し指と親指同士の指先をくっつけて下さい。これでルシェモモの全体図の出来上がりです。
…思わずバスガイドさんのノリで復習しちゃったけど、街の形は本当にこんな形だった。
昨日の夜、フェラリーデさんに今日の分も講義してもらったんだけど、内容はルシェモモの街についてだった。
地図も見せてもらったけど、ルシェモモはこの指で形作ったのとほぼ変わらない変形したひし形で、玉ねぎ型にも見える形をしていた。
人差し指の第二関節から親指の付け根に、バツ印のように線を引くとおおよその東西南北の地区の範囲になる。
親指側が北、人差し指側が南だ。
それで、さっきの方法でバツ印を入れると、北の地区が一番大きいのがわかる。
何でも、人差し指側はほとんど崖でその外側は海らしい。
埋め立てもしたが南側は言うほど街を広げられなかったのだとか。
結果、陸続きの北がどんどん広がっていって、現在の形になったそうだ。
まあそれで、その一番広い北地区の真ん中を通ってるのがミレー通りとマレリー通りだと教えてもらった。
ミレー通りが最初の中心の通りで、街を広げた後、それをさらに延長して北の森の入口まで伸ばしたのがマレリー通りだと教えてもらった。
今はミレー通りの中央広場にいる。
手で作った簡易地図で見ると、人差し指と親指の指先を結んだ線と親指の付け根同士を結んだ十字の線の交点にいるというわけだ。
中央広場はどこの地区も広いらしいけど、まさか広場の端も見えない程とは思わなかった。
テントで埋め尽くされているにしても、向こう側の建物の丸い屋根くらい見えてもいいのに。
広場の入口の左右に並ぶ建物は大きかったから、この広場の周辺の建物は大きいと思うんだけど。
まあ、歩いてみればわかるか。
「ほら。急がねえと店を回れねえぜ?香辛料や乾物系統は右側だ。アニス。そのまま右の道を道なりに進んでくれ。」
「はい。ハルカさん、こちらです。」
アニスさんに手を引かれて道を進んでいく。
道はゆるく左にカーブを描いていた。左右にお店が並んで、その間を通っている。
たしか、広場はどこも円形だと聞いた。広場に沿って店が並んでるんだろうな。
にしても…これ、はぐれたら絶対迷子になる。ひとも多いし、店の数も多い。20数えたところでやめたけど、まだまだ続いている。
迷子の危険度はさっきより上がったかも。
でも、いつかは自分で買い物に来たいなあ。
「思ったより、店の数が出てんな。商魂たくましいねえ。」
「もしかして、まだ多くなるんですか?」
シードさんのつぶやきを拾って聞きかえす。
いや。私に聞こえるくらいの声で言ったんなら、聞いてもいいかなと思って。
「ああ。耳に入ってくる音がちょっとばかし少ねえからな。いつもはもっと店の数が出てるはずだ。並びの真ん中の方に行けばわかるぜ。」
音って…。私には喧騒しか聞こえませんが。
これが聞き分けられるのか。すごいなあ。
ますます、私に出来ることが無い気がしてきた。
仕事、見つかるかなあ。
そんなことを考えながらもテントの前を通り過ぎていく。
テントといっても、運動会とかで見た屋根だけのものだ。その下に木箱が置かれ、商品が並べられている。
気になるのは、少し曇りのあるガラスのドームのようなものが商品を覆っていること。
ほこり避けかな?異世界のお店は謎が多い。
「この辺だな。」
シードさんが言って、アニスさんと私も止まった。
お店を見渡すと、白いねじれた角のようなものから、極彩色の粉末を山盛りにしている店まで千差万別だった。
「ハルカ。この辺りが香辛料と調味料の区域だ。進んでったらゼリーの材料や果物の売り場になる。
ここは市場の一番外側の部分だが、この辺りは単体で買える。中央付近の店は業務用が多いから、覚えとくと良いぜ。」
「はい。覚えておきます。ありがとうございます。」
そっか。外側が個人用か。内側になる程、業務用になると。
それで、広場に入ってすぐに右側を進んでくと、調味料や香辛料のゾーンに着くわけですね。
わかりやすくていい。これなら、慣れたら1人で買い物に行けそうだ。
では、早速、香辛料を見てみますか。