91.トモミさん
「もうっ。おじいちゃん。何やってるの?」
可愛らしい声にそちらを向けば、抹茶色の髪が綺麗な女の子が立っていた。
この子もエルフだ。良く見ると、青い束とスモークピンクの束が抹茶色の髪に混ざっている。
もう見慣れた派手な色の組み合わせだけど、この子のは落ち着いてて目に優しい。
顔立ちはどちらかと言うと可愛いタイプの美少女だ。エルフだから美形は基本です。
「お客さん入口で足止めして~。あ。アニスさん。いらっしゃい。新しいお客さん連れて来てくれたんですか?」
「うん。そう。あ。ハルカさん。こちら、この店の看板娘でトモミさんです。」
「は、初めまして。ハルカです。」
「あ。どうもご丁寧にありがとうございます。トモミです。さ。よければ中も見てって下さい。今日は新作が出てますよ~。」
初めての普通の名乗りに緊張したけど、あっさりしたものだった。
疲れたりしなかったし、こんなもんなんだな。
それにしても、トモミって…。
何故に日本風?もしかしなくても、あー兄ちゃんだよね。
お祖父さんもえ~と、何だっけ?名乗ってないから思い出せないけど、日本風の名前だったよね。
ちらりと見ると、お祖父さんはもうレース編みを再開していた。こっちには興味ないみたいだ。
「わ。可愛いっ。」
アニスさんに続いて店の中に入るとパステルカラーにふわふわした服が十数点並んでいた。
今までのお店に比べて品数がすごく少ない。きっと、一点、一点、丁寧に作ってるんだろうな。
「ありがとうございます。気に入ったものがあったらあててみて下さいね。」
「ここの服はトモミさんが作ってるんですよ。」
「えっ。すごいっ。これ全部ですか?」
「はい。レースはおじいちゃんが作ったものを使ってます。」
あらためて見ると、薄い水色の上下にわかれたセパレートの服やドレープのついたラベンダーの服の袖や裾に繊細なレースが縫いつけられている。
レースが肩口に重なって半袖のようになっているものもあった。
ガーリーな雰囲気の物もあれば、キラキラしたビーズが縫いつけられていて、ドレスのような大人っぽいものもあった。
入口を見た時は買うもの無さそうだと思ったけど、大人っぽいレースの服も結構ある。
「これいいですね。」
指さしたのはイエローの服で上下のセパレートの服だ。
一見、無地に見えるけど、実はお花の地模様がある。良い布だ。
たっぷりの薄い布を使って、ふわりとしたラインを作っている。
こちらの衣装にしてはめずらしく袖がつけられていた。もちろん全体のデザインに合わせて、ひらひらしたタイプの袖だ。
下のスカートもタックがたくさん取られていて、ひらひらした感じの可愛いスカートだった。たしか、タックギャザースカートだっけ。
たぶん、このスカートをはいてくるっと回ると、ふわりと裾が広がると思う。この裾にも繊細なレースがあしらわれていた。
可愛いだけじゃなく、上品な感じがいい。子供っぽさがないもんね。
トモミさんの勧めで手に取ってみる。鏡の前であてると、結構似合っていた。
「素敵ですよっ。」
「わあ。よくお似合いですっ。」
「ホントに良く似合ってるぜ。ハルカは服を見付けるのが上手いな。」
アニスさん、トモミさん、シードさんがそれぞれ感心したように褒めてくれる。
えへ。嬉しいな。可愛い服も欲しかったんだよね。購入決定だ。