88.ギレの店
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あれから、鏡に映った様子も似合っていたので、即、購入した。
抑えた黄色が肌に合っていて、しっくりくきたんだよね。
良く見ると、胸元に大きな黒と銀の花が1本ずつ絡み合っていて、首元や袖から裾にかけて額縁みたいに繋がった黒い模様が入っていた。
表も裏も同じ模様で、同じ生地を2枚使って前後で合わせているみたいだった。
南国風な衣装だけど、こっちの気候にはあっていると思う。
テラも黒地に銀の刺繍が入ったものを合わせて買った。
満足のいく買い物をして、次の店に向かうことにする。
他の店もみたいし、もっとシンプルな服も欲しかったからだ。
「こちらがギレの店です。普段にも使いやすいものが置いてあって、こちらで買い物をする隊士も多いんですよ。」
アニスさんが次に案内してくれたのは、ポンカの店から10分くらい歩いた所にあるギレの店だった。
他の店と変わらない大きさで、私の感覚でも店1軒分の広さだ。
ここも入口の外にも一杯の服がかかっている。
入口に向かって右側に木の机があって、イスに座っているヘビさんがニコリと笑って「いらっしゃい。」と言ってくれた。店員さんみたいだ。
中に入ると、こちらの店も丸みのある壁にそって服がずらりと並んでいる。
でも、さっきと違って、柄は控えめなものばかりだ。無地の服が多いかな。
成る程。たしかに普段に使えそうだ。
生地も薄物じゃなくて、しっかりした生地が多いみたいだし。
目についたサーモンピンクの服を取ってあててみる。
アニスさんのよりオレンジが強いけど、良い色だ。肌馴染みもいいし、気に入った。
「これにします。」
「早ええな。リリィについてきた時はもっとかかったぜ?」
私の決断にシードさんは驚いたようだった。
確かリリィさんってご挨拶した治療部隊の副隊長さんだ。理知的な印象のエルフの女性でシードさんの奥さんだよね。カーキ色の髪が印象的だった。
女性の買い物は長いからなあ。
きっと、奥さんの買い物に付き合って待たされたんだな。
「直感でいいなって思って、鏡をみたら似合ってたんで。だから迷いませんでした。」
「直感かあ。リリィもそれくらいで決めてくれればなあ。」
なかなか大変みたいだ。
私もあー兄ちゃんに文句言われたことがあったなあ。男性にはわかんないみたい。
「ふふ。迷うのも楽しいんですよ。あ。アニスさん。これアニスさんに似合いそう。」
目についた青緑色のワンピースに目が留まる。
良く見ると、青緑から深緑にグラデーションしてるんだけど、裾の方だけなので青緑の方が目立つ。
アニスさんにあててみると、よく似合っていた。
色が白いから、濃い色が良く似合うんだよね。
「そうですか?嬉しいです。」
照れた顔がかわいらしい。
私が男だったら今ので悩殺されてました。
「買っちまえば?珍しい染めだし、次に見つかるかわかんねえぞ?
今日は案内役なんだから、そんなに気ぃ張らなくてもいいだろ。」
シードさんの言葉にアニスさんが驚いた顔をする。
私1人だけ買い物するのも嫌なので、うんうんと頷いて同意を示すと、嬉しそうに微笑んだ。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて、買ってきます!」
頬を染めて入口に向かうアニスさんの後を追おうとすると、シードさんに腕を引かれた。
「ありがとな。あの色はなかなかねえんだ。キーファが喜ぶ。」
え?キーファさんってご挨拶した副隊長さんだよね?術士部隊の。
キィさんと同じくカエルを彷彿とさせる楕円形の頭に大きな黒い目でつるりとした肌を持っていた。肌の色は確か青緑。
「えっと。お役に立てたなら良かったです。」
何かお礼言われるようなことしたかな?
アニスさんに青緑の服を勧めただけで…青緑?
たしか、さっきの店で相手の色をいれた服を着るのは好意の証なんだって、シードさんにこっそり教えてもらった。だからテラは黒にした。
だとすると、アニスさんってキーファさんと?へえ。
あの、メガネにですます口調で冷たい印象もあるキーファさんと素直で可愛らしいアニスさんが。
所属も違うし、印象も全然違うふたりなのに。
まあ、でも、恋愛なんて外からはわかんないもんだよね。
両想いなのかな?アニスさん、喜んでもらえるといいね。