9.ほどほどに頑張る
「うん。気を付けてね。まあ、何か触りたいときは、僕かディー君に聞いてもらえれば大丈夫だから。
そんなに気負わなくても平気だよ。訓練始めたら、今日みたいなことはほとんど起こらないし。」
あ、そうなんですか。よかった。
正直周りのものが怖くなってたんで、ホッとした。
(なら、早く訓練始めた方がいいのかな?…聞いてみようか。)
「今日の訓練って…。」
「延期だよ。もちろん。治療はしたけど、完全には回復してないと思うし。
…指先とかしびれてない?」
言われて指を動かしてみる。
…確かにゆっくりとは動かせるけど、早くは動かせない。
(へぇ~。しびれるってこんな感じなんだ。)
妙なことに感心しながらも、メルバさんに上手く動かない指を見せながら報告する。
「しびれてますね。動かすのも、これくらいが限界です。」
それを見てメルバさんが私の手を取り、しげしげと観察し始めた。
頭はすっきりしてるんだけどなぁ。もしかして足も?
意識してみるが、足の指も上手く動かなかった。
どうしよう。治るのかな?
「ふふっ。そんな顔しなくても大丈夫だよ。完全じゃないのは、ハルカちゃんと相性の良い魔素の持ち主がいなかったから。
クルビス君、今中央の守備隊に報告に行っててね。戻るのは明日なんだ。
だから、治療の続きは明日。今日はお休みにしようと思ってる。」
クルビスさんいないんだ…。隊長さんだもんね。忙しいに決まってる。
じゃあ、明日まで指はこのままか。食事のときは気を付けなくちゃ。
「…このまま寝てた方が良いんでしょうか?」
頭はすっきりしてるんですが。
このまま寝てるのはキツイなぁ。
「身体は起こしても大丈夫だよ。ただ、あまり動き回ったりはしない方がいいかな。安静にしててくれれば悪化はしない。」
あ、よかった。身体を起こせるなら、だいぶ違う。
…そうだ。倒れる前にフェラリーデさんと話してたゴムのこと、メルバさんにもうちょっと聞いておこうかな?
「じゃあ、早速。…っと。えっと、メルバさんってまだお時間ありますか?」
「うん。いるよ。僕はハルカちゃんとルシンを見るためにここにいるからね。」
身体を起こして聞いてみると、メルバさんが後ろの方を指したので覗き込んでみる。
すると、メルバさんを挟んで向こう側、私の寝てたベッドの右隣にもう一つベッドがあって、そこにシーツが盛り上がっていた。
「…ルシン君ですか?」
「そう。なんだか繭みたいでしょ?丸まっちゃうところはドラゴンの一族だね。」
ドラゴンの特性ですか。ドラゴン本体の大きな身体なら丸まるのもわかるけど、ヒト型になってもそうなんだ。
知らないことでいっぱいだなぁ。異世界だから当たり前だけど。
「ルシンもハルカちゃんの治療を手伝ってくれたんだよ。それで、慣れないことで疲れたみたいだ。
彼も寝ちゃったから、今日はお休みにしたんだよ。」
そうだったんだ。ルシン君も手伝ってくれたんだ。
ありがとう。いい子だなあ。
「ハルカちゃんもゆっくりやって行けばいいよ。大丈夫。ここはハルカちゃんがいたとこよりは、時間に余裕があるから。」
私がいたとこ…。そっか、メルバさんはあー兄ちゃんから聞いてるんだっけ。
そうだなぁ。昨日見た街の感じも、活気はあったけど忙しない感じはしなかった。
…うん。決めた。ほどほどに頑張ろう。
マイペース。マイペース。無理は禁物。出来る範囲で頑張るんだ。
なら、早速。
「そうですね。ここの方が時間の流れがゆっくりな気がします。
…じゃあ、あの、それで…ゴムについてなんですが、もう少し詳しく教えてもらえませんか?」
知らないことは聞く。これ基本です。
結局、髪止めについては解決してないんだよね。訓練すればゴムは使えるみたいだし、ゴムが使えるならそれに越したことないしね。