8. これってあり?(3)
(彼女を止められるのはお前だけだ)
(なんでぇ? 私より、デスの方が止められるでしょ。何らかの力があるんだろうから)
死神って言っても神だから、力があるはずでしょって思うじゃない。
それとも、死神って殺すの専門?
(バカを言うな! あの子はまだ生きなくちゃいけないんだ)
また熱く語られるのも面倒だから、とりあえず会話の糸口を掴もうと声を掛けてみた。
「そんなところで何してるの?」
なんとも間の抜けた質問だけど、他にいいようがないじゃない。
それに、こんな間の抜けた質問に、彼女は小さく「え?」と答えてくれた。
見れば、私と同じような年齢だ。
「なに……って」
「危ないよ」
「いいの」
「なんで?」
「あなたには分からないわ」
そりゃぁ、分からないよ。
ついこの間死のうと思ったけど、そんなに深く悩んでたわけじゃないし。
「分からないけど、少しは分かると思うよ」
言ってることが自分でも分からない。何を言っていいのかさえ分からない。だから仕方がないよ。
屋上の手すりの向こう側で、彼女はしばらく無言になった。
「私と同じくらいの歳だよね」
無言になられると辛いものがある。何か話をしないと、真面目に目の前で飛ばれたら夢見が悪いじゃないか。
「同じ?……いくつ?」
彼女が、顔を上げて私を見た。結構、可愛い。私ほどじゃないけど。
「高1だよ」
「そう……同じだね」
「なんで死ぬの?」
これまた愚問かもしれないけど、しょうがないよ。話題がないんだから。
この状況でラインのID交換しようなんて話にはならないでしょ。
「……あなた、友達いる?」
よくあるパターンだ。いない人って、こういう質問をしてくる。
「どの程度までを友達って言うのか分からないけど。とりあえず、話したり……話したり……話したり……する友達はいるよ」
「話すばっかりだね」
他に思い浮かばないんだからしょうがないじゃない。大体、この状況で『彼氏を紹介してもらおうと思ってさ~。今日も友達と歩いてたんだよね』なんて言えない。
「そうだね」
「でも……いいな」
おお! 悲しげな瞳。
「私も、何でも話せる友達が欲しい……」
「作れば?」
「やっぱり、あなたには分からないよ。そんなに簡単に友達なんて作れないもん」
「そうかなぁ」
学校でもネットでも、結構簡単にできちゃうけど……。
「信じてた友達に、裏切られた……たった、一人の友達に……」
(なるほどね)
「だから、もうダメ……もう、誰も信じられないから、死ぬのうって」
言いながら涙ぐんでる。
「そっか~。じゃ止めるの、やめた方がいい?」
(こら! 止めろ!)
デスが慌てて怒鳴ってる。今まで、黙って見てたのに。