5. 死神デス(2)
(彼は、別行動だよ)
なんとなく嬉しそうだ。
(なに? 白い彼とは、あまり仲良しじゃないわけ?)
一応、死神といえど神だろうし、仲がよくないなんてあるわけないよね、とは思ったけど……。
(そうだね、オレとしてはアイツの考え方は好きになれないよ)
あっさりと肯定されちゃった。
(なんで? 見た目は優しそうじゃない。実際はイヤなヤツみたいだけど)
なんで? とか聞きながら、私も言ってることがめちゃくちゃだ。
(その通りだね。オレは死に急ぐ必要はないと思ってるんだ。でも、アイツは死にたいやつはどんどん連れて行くって考え方なのさ)
それが死神の仕事だろうと思うが、黒の彼はそうは思わないらしい。
(死神だからって、何でも連れて行くのは、どうかと思うよ。まだ若くて、やることが残ってる人を連れて行くんだよ。オレは納得できないよ)
結構いいヤツらしい。
(だから、君が死のうとしたのは不本意だったんだ。それも、あんな理由にもならないような理由で死ぬなんて!)
理由にもならないって……。当たってるけど。
(死にたくない人はたくさんいる。死にたくないのに、死ななくちゃならない人がたくさんいるんだ。君はそれをどう思う?!)
完全熱弁に入ってるよ。
うっとおしいやつだなぁ。
(そういう死にたくない人を連れて行くってのも、結構悲しいもんなんだ!)
黒の彼は拳を握って、涙ながらに訴え始めた。
酔っ払いかよ。
(病気で、生きたいのに生きることができないなんて、可哀相じゃないか。もちろん、そういう運命なんだけど)
運命か。
そういえば、今日彼らに会わなかったら、私はきっと飛んでただろう。
と言うことは、彼らを見ることと、見て死ぬことを止めることが私の運命だったということ?
(いや……君は、もともと俺たちを見なかったとしても、死ぬことはなかったと……思いたい)
それ、運命論から外れてない?
(とにかく、寿命でもないのに死んではいけない! 死ぬなんて、つまらない。おばあちゃんの言っていた通り、死んだら損なんだよ)
おばあちゃん……。
思い出した。
(そういえば、おばあちゃんが死ぬときって、あんたが迎えに来たの?)
(あんたって……オレは神だよ。あんた呼ばわりは悲しいなぁ)
なんだ?
さっきの熱弁はどこへいった?
(だって、名前を知らないもん)
(名前ねぇ……言っても、覚えられないだろ)
確かにそうかも知れない。興味がないと覚えないのは、性格なのだろう。
(じゃぁ、Deathでどう?)
(そのままだな)
と言いつつ笑ってるけど、その笑顔がなんとも素敵だったりする。
死神に恋しそうなんだけど、これってダメじゃん。
(そうか、ではお前の名前はなんだ?)
(あずみ)
(ほぅ。ところで、あずみ)
黒の彼に呼び捨てにされると、なんだか体の芯が燃えそう。
やばい、マジで好きになりそうだ。
(お前、死ぬのは止めたのか?)
(うん、止めたよ)
やめたというよりは、本当に死のうと思っていたのかすら、今となっては疑わしい。
(よかった、二度と死のうと思わないことだ)
(うん)
こんな風にイケメンの彼氏に死ぬなと言われたら、そりゃぁ死のうなんて思わない。
それどころか、しがみついてでも生きようと思うだろう。
(そうか、では用事は済んだな)
そういうと、左手を宙に浮かせた。
その瞬間、消えてしまったのだ。
一人残された私は呆然とした。
ただ消えてしまうだけならば、こんなに呆然とすることもなかっただろう。
しかし、彼は私のハートをしっかりと掴んだまま、消えていったのだ。
彼が消えた後、ベッドの上で大きなクッションを抱えて、一人で転げまわっていた。
(きゃーきゃーきゃー、かっこいいー。ステキー。デスー!!!)
死神に恋した瞬間だった。