20. 天使か悪魔か(2)
「どっちでもないかもね。そんなことより、なんで泣いてるの?」
少年は、ゲームをしているせいか、こんなあり得ない状況でもすんなりと受け入れてくれたらしい。
「泣いてるのは……。辛いから」
そりゃ、うれし泣きならカッター握り締めることはないだろう。
「何が辛いの?」
「あずみには関係ないよ」
関係ないのは認めるけど、人の名前を呼び捨てにするなよな。
「関係ないんだ」
関係ないって、何度も言うってことは、逆に聞いてくださいサインか?
面倒くさいヤツだなぁ。
面倒臭くなって、帰ろうかと振り返ったら、なんとデスがいた。
デスは私の心中を読んだのか、厳しい視線を向けてる。
しょうがない。
はいはい、頑張りますよ。
私はため息を小さく吐いた。
「関係ないだろうけどさ。言えば楽になるよ……多分」
だって私自身、言って楽になるなんてなかったし、そこまで悩んだことなかったから、多分としか言いようがない。
それでも少年は顔を上げて私を見た。
私を見るということは、私の後ろにいるデスも見えてるはずなんだけど、どういうわけかデスは見えていないらしい。
「言ったところで、何も変わらないんだ」
あー! 面倒くさい!
実の弟でさえ、こんなこと言われたら『あ、そう。じゃ一人で悩んでれば』って放置するってのに、どうして真っ赤な他人にここまで頑張らないといけないんだろう。
「変わるかどうかは……まぁ、分からないけどね。でも、自分がどうしたいかで変わるんじゃないかな」
おっと、私いいこと言ったみたい。
「自分がどうしたいか?」
「そう、自分がどうしたいか。それがはっきりしていれば、それに向かって努力すればいいだけじゃない」
「いじめられてて、それが辛くて、それでも自分がどうしたいかだけなの?」
やっぱ、それか。
でも、ここでひるむわけにはいかない。
こうなりゃヤケだよ。適当に、話を作って自殺を止めさせればいいわけでしょ。
「そ、自分次第だよ。イジメにあってるなら、あわないようにするしかないよね。自分の中に弱さがあるからなら、その弱さを克服するしかないし。相手が強いなら、自分が強くなるしかないし。とにかく、大丈夫だよ。自分がどうしたいかがはっきりしてれば、後は頑張るだけだから。必ず、道は開くよ」
なんて言ったけど、イジメがそんなに簡単に収まるなんて思ってないし、そんな簡単な問題だとも思ってない。
「どうして、大丈夫なんて言えるんだよ」
「それは……神だから」
デスの言葉をもらってみた。
人間同士の言葉なんて、否定されちゃうけど『神』って言われると、信じてみようかな的な気分になるじゃない。
だから、言ってみたけど。
詐欺?
いや~。大丈夫、だって私の後ろには『死神』でも『神』がついてるから、あながち嘘じゃないでしょ。
「あずみは神様なの?」
「う・うん」
「何の神様?」
「……」
脳裏に浮かぶのは『鼻紙』『ちり紙』『折り紙』。
ヤベー。
「ねぇ、なんの神様なの?」
「……いずれ分かる。お前が頑張りとおしたときにね」
おお、我ながらかなり適当だけど、かなり真実味がある言葉。
だって、こういうのって頑張って乗り越えたときに、きっと自分で答えを見つけるもんじゃない?
だから、嘘じゃないでしょ。
「どう?」
「………………」
そこから、かなり長い時間考えてた。
眠くて、アクビを堪えるのが大変になりだした頃、少年は小さく
「うん、僕頑張るから。神様、また来てね」
「う……うん」
小さく頷いて見せた。
心の中で、冗談じゃない!
と思ったけど。
少年の部屋から出ると、デスが優しい笑みを浮かべていた。
「よくやったな」
かなり満足そうなんだけど、もう二度とごめんだからね!
と、言いたいけど、眠いのが先にたって、出た言葉は
「もふ、にどほごへんだかんね!」
だった。